cafe眠り猫へようこそ！｜リアクション

cafe眠り猫へようこそ！

　ふらりと、工藤来夢は《cafe眠り猫》の前を通り掛かった。
　その存在を確かに見留めて、来夢の黒の双眸がくるりと丸くなる。
「あら、お洒落なカフェね」
　喉も乾いてるしお茶でも飲もうかしらと、来夢はカフェの扉を開けた。
　漂うパンの香りが、ぐん、と濃くなる。
（うん、いい匂い。これは期待できそうかもね）
　なんて思いながら、窓際の席に着く来夢。
　メニューの頁をぱらりと開けば、カフェメニューの写真達が目にとび込んできた。
「やっぱり、料理と飲み物も美味しそうね。それじゃあ……」
　選んだのは、スコーンと本日のお勧め――ストロベリーティー。
　注文を済ませて、来夢は大きな窓の外を眺めてみる。
　窓の形に切り取られたシーサイドタウンの景色は、眩しいほどだった。
　日曜日の午後を行く、楽しげな人々。
　勿論カフェの中にも、あたたかな空気が満ちている。
（それにしても、こんな店があったなんて気づかなかったわね）
　店内を、ぐるりと見渡してみる。
　やはり、悪くない雰囲気の店だ。
（それに、色んな客が来てるから人間観察に通ってみるのも悪くないわね）
　新しい漫画のキャラのアイデアが浮かぶかも？　なんて思ったら、自然、笑みが零れた。
　そうしているうちに、スコーンと紅茶が来夢の元へと届く。
「あ、来た来た」
　早速、ほっくりと割ったスコーンにジャムを付けて頬張る来夢。
　口元を押さえた来夢の瞳が、ぱっと煌めいた。
（あら、このスコーンいいじゃない）
　ここのところ疲れ気味だった頭に、糖分が優しく染み渡っていくようだった。
　お茶の方はどうかしら？　と、甘く香る本日のお勧めを口に運ぶ。
　すると――懐かしい記憶が、ふわりと脳裏に浮かび上がった。
（……このお茶……何か、不思議な感じが？）
　鮮やかに頭の中に再現されたのは、幼い頃、漫画を描き始めた頃の記憶。
（父さんが買ってきた少年ニャンプを読んではまったのがきっかけだったっけ）
　そんなことを思い出して、ふふ、と来夢は音を漏らした。
（女友達は少女漫画しか読んでなかったから、話が合わなくて苦労したっけな）
　その代わりのように、男子とは何というかウマが合っていたような気がする。
　あの時の同級生の皆は、今、何をしているだろうか？
（あたしがニャンプで連載してるってしったら、どんな顔するか楽しみね）
　そんなことを空想して、来夢は口元を綻ばせた。
　弾むような心地で、紅茶とスコーンを味わい終える。
　どちらも、最後までばっちり美味しかった。
（さーて！　美味しい物も食べたし、それに、いい思い出も思い出せたし）
　随分と気分がリフレッシュした気がすると思いながら、来夢はうんと伸びをする。