cafe眠り猫へようこそ！｜リアクション

cafe眠り猫へようこそ！

　桜庭円が《cafe眠り猫》を訪れたのは、なんか面白そうなカフェがある！　と思ったから。
　そこで偶然姿を見つけた犬杜初の元へ、円は迷いなく歩み寄った。
「初ちゃーん！　相席いいー？」
「って、あんた、もう座ってるじゃない」
　唇を尖らせる初だったが、本気で円に去ってもらいたい、という調子ではない。
　全く……と言いながらも、最後のスコーンを大事そうに食べる初の様子に、円は密かに口元を緩めた。
（クローネが居なくなって、初ちゃんが困ってそうな気がしてて……）
　だから、丁度話をしたいなと思っていた円である。
　思っていたよりは元気そうかなと、円はメニューの頁を開いた。
「んー、ボクは猫印トーストかなぁ。初ちゃんのそれはスコーンだよね？」
「うん、美味しかったわよ」
「じゃあ、トーストも期待できるね」
　注文を済ませて、円は初の方へと身を乗り出す。
「初ちゃんさぁ、相談いーい？」
「どうしたのよ？　……まあ、聞いてあげなくもないけど」
「ボクたちもう高校２年生じゃない？　卒業後の進路をそろそろ考えなきゃいけないよね」
「やだ、めちゃくちゃ真面目なやつじゃない」
「そうなんだよ。どうしようかなって、悩んでてさ」
　警察官に、雑誌の編集。最近は文化学にも興味があるし……。
　なんて、指折り数えたあとで、円は屈託なく笑った。
「……って具合で、全然ね、決まらなくて漠然としちゃってる訳だよ」
「なんていうか、見事にバラバラね」
　ちょっぴり呆れたような声で言って、初が紅茶を啜る。
　紅茶も美味しそうかもしれない、と頭の隅っこで思いながら、円は言葉を続けた。
「でも、将来的にも不思議な出来事追いかけていけたらいいなーとかはちょっと思ってたりもするんだ」
　だから、オカルト雑誌か、文化学の方が楽しそうなのかなー、と首を傾けてみせる円。
「ねえ、初ちゃん。どう思うー？」
「ういは……あんたなら、どこででもやっていけそうな気がする、かな」
「……もしかして、適当？」
「一応本気。不思議なことを追い掛けてるあんたの楽しそうな顔が目に浮かぶし……」
　あんたみたいな警察官もいたら面白いだろうなって、と初はくすりとした。
　そのタイミングで届いたトーストを、早速ぱくっと齧る円。
　外はサクッと、中はふわっと、いい具合だ。
「成る程成る程。ねえ、初ちゃんは将来について、明確な目標とかあったりする？」
「ういは、カワイイ物に囲まれて暮らしたいなぁ。ショップ店員とかやってみたい！」
「そっかぁ。ケーキ屋とかも似合いそうだよね」
「あっ、それも考えたことあるの！　可愛くって美味しいって、最強だもん！」
　つまるところ、はっきりとは決まっていないらしい。
「初ちゃんって、何が得意なんだっけ？」
「料理かな。あと、カワイイ物を見つけること」
　ふむふむ、と、円は今度はミルクジャムと一緒にトーストを口に運んだ。
「……うん、甘くておいしい」
　呟いた後で、円は赤の双眸で真っ直ぐに初を見る。
「少しでも前向きにね、何か考えていけたらいいなって。そう思って、進路の相談してみたんだ」

「何ていうか。一つの物事は終わっても、時間は流れていて、人生は続いていくんだし」
　円の言葉に、初は考え込むように少し俯いた。
「……そう、よね。うん、あんたの言うこと、ちょっと、わかる気がする」
「ほら、大学に進学するにしても、先は考えといたほうが学部選びの時とかにもいいだろうしね」
　自分自身に向き合う時期かなーって、と音を紡げば、
「……自分自身に、向き合う……」
　と、円の言葉を自分の心に染み込ませるように繰り返す初。
「なんて。ほら、大人っぽい思考じゃない？　ボクすごくない？」
　声を華やがせ、にぱっと笑顔の花を咲かせる円へと、
「……ういは、あんたのこといつもすごいと思ってるけどね」
　なんて、初は面映ゆげに、小さな声で呟いて紅茶をまた口に運んだ。

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