ラッカミ村の人狼｜リアクション

ラッカミ村の人狼

「ねぇ、サキリさん。チナミ、村の人たちの希望で火あぶりになっちゃうんですぅ。どう思いますかぁ？」
　逃げ出さないよう一室に閉じ込められたチナミが、見張り番を務めるため扉の外にいるサキリに声をかける。チナミが内側、サキリが外側。ふたりは扉を背にして座っている。分厚い扉越しに互いの体温は伝わらない。
「美しい君を醜い死体にはしたくなかった」
　サキリが銀のナイフを手入れしながら告げると、背後からクスクスと笑い声が聞こえる。
「ナンパですかぁ？　サキリさんの本命って別の人じゃないですかぁ♡」
「……」
　初恋の相手、ペルラの顔が浮かぶ。
（……あの優しい笑顔が嘘であるわけがない）
　苦悶するサキリを挑発するかのように、チナミが甘えた声を出す。
「最後にお話ししてくれたお礼に、お花を飾っておきますねぇ。チナミが村の人たちに連れていかれたら受け取って欲しいですぅ♡」
「ああ、わかったよ」
　やがて村の広場で火刑の準備が整い、黒い頭巾をかぶった太い腕の死刑執行人がやってきた。常人には感じられぬであろう腐臭にサキリが眉を寄せる。
「あっ、あっ。痛いですよぉ。ひとりで歩けますからぁ」
　チナミは引きずられるようにして広場に立たされ、石を投げられ、くくりつけられる。

「皆さんが間違えたからこうなったんですよぉ？　
　ねぇ？　みなさんのせいで、因は死んじゃうんですぅ♡
　ここって本当にいい村ですよね。本当にいい村ですか？
　あれれ？　優しい村じゃないんですかぁ？
　わざわざ見せしめのために殺すんですかぁ？
　すーっごく怖いんですよぉ？
　私に石を投げた人？
　自分の不安を、チナミでごまかしたいだけですよねぇ？？？？」
　
　チナミが足元から燃えていく様を眺めていたペルラは、今目の前で起きていることが事実だと受け入れられなかった。
（わ、私のせいじゃあありません。私はチナミさんには投票していないです）
　叫びだしたい衝動を抑える。目をそむけることができたらどんなにか楽だろう。
　美しかったチナミの蜂蜜色の髪は炎に飲み込まれ、その体は炭に近づいていた。チナミの首が動きむき出しの歯がペルラに向けられる。

　ぜぇーったい、許してなんてあげないんですからぁ♡

「私じゃない。私じゃない。私じゃない。私じゃない……」
　許しを請うように絡ませた両手の指。
（私は何に祈ればいいのでしょうか）
　チナミを殺した十字架はペルラの心を救ってくれない。