ラッカミ村の人狼｜リアクション

ラッカミ村の人狼

【事件発生】
「たたた、大変だー！　サキリくん、大事件だぜ！」
　ニワトリと共に生活する少年・マモル（卯木衛）が、サキリ（サキリ・デイジーカッター）の部屋の扉をバンバンと叩く。

「……朝早くから元気だね、マモル」
　マモルの朝は日の出より早いが、酒場でウェイター兼用心棒をしているサキリにとって朝など寝ている時間帯だ。不機嫌を顔に出さないように努めつつサキリは小さくあくびをした。
「こんな朝早くから一体どう――」
「シスターが殺されたんだ」
　時が止まったかと思った。
「とにかく来てくれ！　村長に村のみんなを教会に集めるように言われているんだ！」
「わかった。すぐに行こう」
　パッと走り出すマモルの背中を追う。走りつつ、サキリは眠る時も懐に忍ばせている銀のナイフの感触を服の上からそっとなぞった。
（僕のいる村で殺しが起きてしまった）
　血の匂いがする過去がよみがえる。
　サキリの裏の顔は【狩人】。対象者を一晩護衛するスペシャリストである。
（ひとりでは終わらない。そんな気がする）
　悪い予感ほど外れないのは経験上よく知っていた。

　教会の壁にはシスターの血がぶちまけられていた。検死を依頼された村の薬屋・ペルラ（ペルラ・サナーレ）が血まみれの両手を拭いながら、深い悲しみをたたえた瞳で村人に結果を告げる。
「他殺です、間違いなく。しかし、シスターを殺したのは人ではありません」
　医療の心得のあるペルラの発言に村人たちがざわつく。
　何を言っているんだ？　まさか！
　怯えが伝染していく様がペルラにはよく見えた。
「彼女の衣服から犬に似た毛、首からは牙に噛まれた跡を確認しました。そして……シスターの口からこちらの手紙が見つかりました」
　ペルラがシスターの口にねじこまれていた手紙を、村人たちに見えるように掲げる。ペルラが内容を読み上げる前に、凡庸な村には相応しくない精緻な装飾が付いた仮面をつけた男・ブドー（志波武道）が不謹慎にも喜びを含んだ声で朗読する。
「『この村には２匹の人狼が混ざっている――』」
　それは人狼からの挑戦状。
　この村には人狼が２匹混ざっており、道楽のために一晩にひとりずつ殺していく。もし逃げる村人がいれば、道楽のひとりとは別にその者の命も貰い受けると記載されている。
（嗚呼。退屈に人生を消化するだけの日々が彩りに溢れてきました。
　御覧なさい、あの村人たちの他人を疑うような視線を！　昨日まで仲良しごっこに興じていたのが、一皮剥けばあの通り。この騒動を私の筆に閉じ込められたらさぞかし面白い読み物になるでしょう）
　仮面の奥のブドーの瞳が三日月の如くしなる。
　ブドーは「小説家」だ。村の端、山に近い場所に建てられた黒い屋根の家で陽の光を避けるようにして暮らしていた。表情を読まれることを嫌い、仮面で顔を隠し、変わり者扱いされることを誉とした。村の中に彼の小説を読んだものはいない。
　逃げ出したら殺すと脅され、怯えた村人たちは人狼たちの提案を受け入れざるを得なかった。犯行可能時間にアリバイが無いものを集めたところ７人の容疑者が浮上する。村人たちはその７人に話し合いをさせ、多数決で処刑する人物を決めさせることとした。
　容疑者のひとりである令嬢・トワ（トワ・E・ライトフェロゥ）は自身が容疑者とされる理不尽から打倒人狼に意欲的なひとりであった。それもそのはず、彼女には他の村人とは違う特技がある。彼女は【占い師】。神秘的な力をその身に宿し、悪しきものをタロットの力で見分ける人狼の天敵である。
「だれを占いマショーカー。ブドーもーマモルもーミリョクテキ、デスケド！」
　７人の容疑者を頭に描きながら机に散らしたタロットをかき混ぜる。
（パパとママが愛した村をトワが守るのデス！）
　トワの両親は彼女が赤ん坊の時に事故で他界していた。
（女の子で、心強い人物を占いたいデス）
　トワは占い対象をチナミに決めた。占い結果を確認したトワの顔がこわばる。
「ナン……ダト……」
　【チナミは人狼】であった。

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