【入学式】ぴっかぴっかの１年生！｜リアクション

【入学式】ぴっかぴっかの１年生！

　――その輝きはアクセサリーのように

　寝子高への初登校を無事に済ませ、入学式も恙無く終えて。
　１年５組の教室へと足を踏み入れた水上桜は、ふう、と深く息を吐いた。
（校長先生の式辞、流石に長すぎ……）
　恙無く終えた、とはいうものの、あの長話は桜をぐったりとさせるのに十分なものだった。
　中学の入学式でも、これほど疲れるということはなかったはずだ。
　それに、《新入生の誓い》では、緊張のせいで何を誓ったか全く記憶にない。
　記憶と一緒に、エネルギーも存分に奪われたという可能性が大いにあった。
　桜と同じ気持ちなのか、お疲れ、と手をひらひらさせて声を掛けてくる子がいる。
　あの先生が可愛かった、あの先輩の誓いがすごかった、と盛り上がっている子達もいる。
　そんな教室の様子に、桜はしみじみとして思った。
（ああ、これからこの教室で、１年を過ごすことになるのね……）
　自分に割り当てられた席へと向かう。
　窓からも廊下からも程よく離れた位置。つまりは真ん中だ。
　授業の時に高確率で当てられるポジションだな、と桜は思った。
（居眠りとかできないな……）
　そんなことを考えながら、机の表面を何とはなしに撫でる。
　自分の為に用意された机に触れていると、自然、唇を揺らす呟き。
「今日から本当に寝子高生か……なんだか信じられないわ」
　零れた声は、教室の喧噪に紛れて消えた。

　入学式の時よりも近くで見る担任の四十九院鸞先生は、美人で、ちなみに胸も大きかった。
（服装は……なんというか凄いわね。浮世離れしてるなー）
　桜がそんな感想を抱く中、四十九院先生は改めての自己紹介を終えた。
　名前と、教科と、１年間よろしくお願いしますの言葉。
　それを紡いだ後で、四十九院先生は妖艶に口元を綻ばせ、教え子達を見回してみせる。
「それでは、皆さんにも自己紹介をしていただきましょうかしらぁ？」
　廊下側の一番前の席から、クラスメイトが順番に自己紹介をしていく。
　その間、桜は、ずっと四十九院先生のことを見つめていた。
（あの黒いドレスには、どんなアクセサリーが似合うかしら……）
　色々と、頭の中でイメージしてみる桜。
（シルバーやゴールドをさりげなく、ポイントを押さえて配するのがいいな）
　うん、それがいい、と頷く。と、その時だ。
「――桜ちゃん。水上桜ちゃん？」
　名前を呼ばれて、桜は我に返った。
　四十九院先生が、怒るでもなく面白がるような顔をして、桜を見つめている。
　空想に夢中になっている間に、桜の番が回ってきていたのだ。
　ガタン、と椅子を鳴らして、桜は慌てて立ち上がった。
「私は水上桜といいます。桜花寮に住んでいます。趣味はアクセサリーを作ることです」
　これから一年宜しくお願いします！　と、頭を下げる。
　ぱちぱちと、教室中から拍手の音が響いた。
　四十九院先生も、優雅な所作で手を叩いている。
「よろしくお願いしますわねぇ。アクセサリーが作れるだなんて、すごいですわぁ」
「いえ、あの……ありがとうございます」
「ねぇ、桜ちゃん。私には、どんなアクセサリーが似合いますかしらぁ？」
　見立てていただける？　と小首を傾げられて、桜は「はい！」と声を弾ませた。
　黒い瞳をきらきらと輝かせて、桜は先ほど考えたことを夢中で語る。
「――そしたら、先生の魅力がより引き立つんじゃないかなって思うんです！」
　力説する桜へと、四十九院先生は楽しげな微笑を向けていた。