【入学式】ぴっかぴっかの１年生！｜リアクション

【入学式】ぴっかぴっかの１年生！

　――春、憧れに胸を焦がして

　無事に入学式を終えて、汐月ココノは自身の教室――１年２組へと向かった。
「私のクラスは……あは、ここですね」
　ぐるりと、室内を見回す。
　新しい学校、初めての教室、今日がはじめましてのクラスメイト達。
　教室に一歩足を踏み入れたところで立ち止まったココノへと、視線が集まる。
　にこ、と、ココノは紅色の双眸を細めて柔らかく微笑んだ。
「あは。こんにちは。汐月ココノと申します。よろしくお願い致しますね」
　同じクラスの仲間を見渡して、自己紹介。
　ココノの態度は堂々としたものだったけれど、内心は緊張しきりだ。
（顔に出ないといいのですが……）
　吹き戻しを吹いて気持ちを落ち着かせたいと思うも、初日ということもありぐっと堪える。
　胸をどきどきとさせていたココノへと、教室のそこかしこから、
「よろしくね、汐月さん」
「ココノって可愛い名前だね！」
　なんて、沢山の声が掛かる。ココノに向けられる、数多の笑顔。
　ほう、と、ココノは密やかに息を吐いた。
（今から不安でいっぱいですが……少しでも早く打ち解けられると嬉しいですね）
　そんな想いを胸に、ココノは皆に笑顔を向けながら、席に着いたのだった。

　暫くして教室へと入ってきたのは、入学式でも挨拶をしていた中野空也先生だ。
　教壇に立ち、中野先生は整ったかんばせに乗る表情をふっと緩める。
「改めまして、１年間皆さんと共に勉強させていただきます、中野空也と申します」
　よろしくお願いしますね、と紡ぐ中野先生の坊主頭を、ココノはじぃと見つめていた。
　その胸を、今度は緊張ではなく――トキメキに、どきどきとさせながら。
（中野先生……近くでお姿を見ると、余計に神々しく感じます……）
　入学式にて彼がマイクを手に挨拶した瞬間から、ココノは中野先生の虜だった。
　彼が本物の《僧職系男子》だと聞いた際には、運命のようなものさえ感じたほどだ。
（そう、あれは私が中学生だった頃――）
　美術の教科書を通して、ココノはその彫像――『空也上人像』に出会った。
　それは、著名な僧が念仏を唱える姿を表現した彫像で、
（そのインパクトといったら筆舌に尽くし難く、素晴らしく……）
　ココノはもう、脳裏に焼き付いたその姿を忘れることができなかったのだ。
　知らず、ココノは恍惚として胸の前で手を組んだ。
（嗚呼。先生がお話する姿……まるで、口から南無阿弥陀仏が紡がれている様ではありませんか）
　中野先生の姿が、ココノの目には、かの彫像と重なって見える。
　ちなみに、胸を熱く焦がすのは感激と憧れである。
　断じて恋愛感情ではない、というのは今更ながら特記しておくべきところ。

　そして、ホームルーム終了後。
　教室を出る前に、ココノは中野先生へと声を掛けた。
「中野先生、さようなら。１年間、ご指導のほどどうぞよろしくお願い致しますね」
　ココノの挨拶に、中野先生の目元が綻ぶ。
「こちらこそ、よろしくお願いします。一緒に、様々な経験を積んでいきましょう」
　そう音が紡がれた瞬間、ああ、後光が差すようだとココノは確かに感じて、
「はい、空也上人」
　とうっとりとして零し、合掌した。
　中野先生が不思議そうに瞳を瞬かせるのに、我に返るココノ。
「ま。私ったら、感極まってしまって、つい」
　あは、と軽く首を傾けるココノにつられたように、中野先生は口元に緩く弧を描いた。