【入学式】ぴっかぴっかの１年生！｜リアクション

【入学式】ぴっかぴっかの１年生！

　――ようこそ、寝子高へ！

　ぴっかぴっかの入学式の朝が、寝子島高校にやってきた。
　見ているだけで胸がすっとするような青空を目に、羽生碧南はふわりと笑む。
　寝子高の２年生として、校門で新１年生の出迎えをすることになった碧南である。
（それにしても、全然実感が湧かないな……）
　今日から寝子高に新１年生がやってくることも、自分が『先輩』なんて呼ばれることも。
「ああ、何だか緊張してきちゃったなあ」
　碧南と同じく新入生の出迎えに当たる同学年の女子が、胸元を押さえる。
　そんな彼女へと、碧南は明るく笑み掛けた。
「ねえ、今年の新入生はどんな子が来るかな？」
「わかんないけど、きっと、みんな素敵な後輩だよね」
「素敵な……後輩……」
　偶然知り合った彼女の言葉を、繰り返す碧南。
　ほわほわほわ～んと、碧南はあっという間に空想の世界へとトリップしてしまう。

　よく晴れた、入学式の朝。
「大変！　このままじゃ遅刻しちゃう！」
　今日は新１年生を迎える大切な日なのに……と、ぱたぱたと通学路を駆ける碧南。
　もうすぐ学校！　という曲がり角に差し掛かったその時、
「きゃ！」
「うわっ！？」
　碧南は、誰かに思いっきりぶつかってその場に尻餅をついてしまう。
「いたた……ご、ごめんなさい、急いでて……」
　顔を上げれば、そこには碧南と同じ学校の制服を着崩した、やんちゃっぽい男の子の姿。
　校章バッチを見るに、碧南より１学年下、今日入学してくるはずの１年生だ。
「入学式なんて柄じゃねぇから、もう帰ってやろうかと思ってたんだが……」
　そう言いながら、新入生くんは碧南へと手を差し出し、にっと口の端を上げて――。

　口元を押さえて、碧南は「うふふふふふ」と笑みを零した。
　入学式の日、年下男子との運命の出会い、そこから始まる恋物語……。
　碧南の頭の中では、そんな乙女ゲーム的な妄想が繰り広げられているのだった。
　現実世界の碧南は、ちょっと残念な状態に突入してしまっているのだけれど。と、その時だ。
「――ほら、新入生が来たよ！」
　軽く肘で突かれて、碧南はハッと我に返った。
　勝手に緩んでしまっていた表情を大慌てで引き締めて、制服や髪型を手早く整える。
（うん、大丈夫！）
　そうして、桜咲く校門を潜る新１年生達へと、碧南は心からの笑顔を向けた。
「新入生のみなさーん！　ようこそ寝子高へ！」
　これから三年間思いっきり楽しんじゃおう！　と、きらきらと輝くメッセージも添えて。
　新１年生達を、碧南は晴れた声と眩しいような笑顔で祝福した。
（去年の入学式の日、私もこの門を同じように潜った……）
　自宅が火事で焼け落ちたのは、寝子高に入学する前のことだったと碧南は思い出す。
（桜花寮で暮らすことが急に決まって、経済的な不安もあっていろいろ苦しい時期で）
　だから碧南は、重い足取りであの門を潜ったのだ。
　今は苦境を脱したけれど、そんな過去もあるからこそ、余計に祈らずにはいられない。
（今度入学した子たちには、そんな憂いとは無縁でいてほしいな、って）
　この門を潜る全ての後輩達に幸あれと、碧南は新１年生達に、大きく大きく手を振った。

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