【入学式】ぴっかぴっかの１年生！｜リアクション

【入学式】ぴっかぴっかの１年生！

　――不良新入生、放課後を行く

　放課後の教室。割り当てられた自分の席で、新江天懸はすっかり凝ってしまった肩をぐるぐると回した。
「はー、疲れた……早くかえりてーぜ……」
　１年４組のクラスメイト達の幾らかは、まだ教室でわいわいと盛り上がっている。
　その様子に、天懸は細く息を吐いた。
　認識が、改めて実感として追いついてきて。
（あー、マジで入ったのかよ俺、寝子島高校に……）
　まだ教壇に残っている担任の伊東大志先生の方をちらと見遣って、
（センコーは、まあガミガミいってくるうぜータイプじゃねえから良さそうだけど）
　と、天懸は胸中に呟いた。それよりも問題は、である。
　灰の眼差しを、窓の向こうに臨める校庭へと移す。
　下校しているのは、自分と同じ新１年生に――それから、２年、３年の上級生達。
　そこに見知った金色が揺れていないことに安堵して、天懸は窓から視線を外した。
　誤魔化すように首の後ろをガシガシと掻きながら、思う。
（同じ普通科だし、顔合わせんのやなんだよな……はぁ）
　まあでも、と、天懸は立ち上がった。
（どーせ向こうは、俺が１年４組に進学したのもしらねーだろ）
　そう自分に言い聞かせて、教室を出る。
　さ、とっとと帰るか……と玄関へと足を向け掛けて、ふと、その足が止まった。
　背を向けた校庭から、運動部のものらしい掛け声が聞こえてきたからだ。
（……野球部はどこで練習してんだ？　部活動のレベルでも見るか……）
　そこまで考えて、天懸は首を横に振った。
　野球の練習は、ずっと欠かしていない天懸である。
　けれど、体育会系の野球少年でありながら普通科に進学した天懸には、まだ迷いがあるのだった。
「……いや、ここは早速、１年生の先生の調査だな！」
　敢えて声に出して、揺らぐ気持ちを今ばかりはなかったことにする。
　天懸の言う調査、というのはつまるところナンパだ。
　自称『寝子島１のナンパ師』として、そこのところは外せない。
　足取りを軽くして、天懸は教室を後にした。
　目当ては――入学式で見つけた、四十九院鸞先生だ。
（隣のクラスの担任だったよな。あの色気は、さすが高校って感じだ）
　まだ教室に残ってるかな、と１年５組の中を扉のところから覗き込む。
「――あ、いた」
　四十九院先生は、話し込んでいたらしい５組の生徒と今丁度別れようというところだった。
　優しく微笑んで手を振る姿は、包容力に溢れているように天懸の目には映って。
　と、四十九院先生の眼差しが、ふっと天懸へと移った。
「あ……どうも、俺、隣のクラスの新江天懸っす」
「御機嫌よう、四十九院ですわぁ。私に、何か御用ですかしらぁ？」
　尋ねた四十九院先生の口元が、緩く弧を描く。
　天懸は、にっと懐っこいような笑みを浮かべて、教室の中へと歩みを進めた。
「ああいや、四十九院先生って背高いなー素敵だなーって入学式の時に思って」
　だから思い切って声を掛けてみたのだと言う天懸の言葉に、
「まあ。光栄ですわねぇ」
　と、四十九院先生はころころと機嫌良く笑み零す。
「あの、先生の担当教科、物理っすよね？　俺それ張り切りますから、名前と顔覚えてくださいっす」
「ふふ、教師冥利に尽きますわぁ。期待してますわね、天懸君」
　天懸の宣言に、１年間よろしくお願いしますわねぇ、と、四十九院先生は目元をふわりと和らげた。