【入学式】ぴっかぴっかの１年生！｜リアクション

【入学式】ぴっかぴっかの１年生！

　――ぴっかぴっかの入学式！（３）

　生徒会長として凛として頭を下げた志波武道が、ステージを降りる。
　充分な間を置いた津止孝道教頭先生の声が、興奮冷めやらぬ講堂へとマイク越しに響いた。
「……新入生の誓い。新１年生は、胸元のリボンを確認するよう」
「……リボン？」
　思わず小さく呟いて、貴家衿花は言われるがままに自身の胸元を見遣る。
　そこには、受付で受け取った黄色いリボン。
　ふと気付けば、黄色いリボンを胸元に飾った新１年生は、ちらほらとしかいなかった。
　津止教頭先生の声が、俄かにざわめく新１年生達の上へと降り掛かる。
　曰く、寝子高には、受付で黄色いリボンを渡された生徒が意気込みや希望を語るという伝統があるとのこと。
　講堂の中が、益々以ってざわめいた。
（そんな伝統があったなんて……。アドリブ、ってことだよね？　緊張するな……）
　どきどきする胸を押さえる藍川慶介も、胸元に黄色いリボンを飾っている。
　ここにヴァイオリンがあったら……なんて思っているうちに、《新入生の誓い》用のマイクが回り始めた。
（……黄色いリボン、もらってるじゃねーか……）
　魚塚源三も、よくはわからないうちに黄色いリボンを手渡されたひとり。
　当然、寝子高入学式の伝統のことなど知らなかったが、
（しょうがねぇ、ここで一発ドカンとかましてやるぜ！）
　と、源三はすぐに腹を括った。その口の端が、にぃと上がる。
　回ってきたマイクを、半ば奪い取るようにして受け取る源三。
　立ち上がるや、真新しい上履きで今まで腰掛けていた椅子に片足をドンと置く。

　俺は魚塚源三だ！
　とりあえずはこの学校最強の座を目指すぜ！
　腕に自信のあるやつぁいつでも相手になるからいつでもかかってきやがれ！

　マイクがキィンと鳴るような大音声で言い放って、源三は不敵にマッスルポーズを決めた。
　呆気に取られる聴衆を前に、満足げに席に着く。
（うし！　掴みはばっちりだな！）
　俺の最強ロードはこれからだぜ！　と、源三は胸の内にガッツポーズを決めた。
　源三の荒々しくも鮮烈な《新入生の誓い》に、慶介は息を飲む。そして。
（――よし、俺も）
　きゅっと、唇を引き結ぶ慶介。痛いほどに握った拳も、最早気にならない。
（俺も、頑張ってみよう。思うまま、ここでやりたいことを言えばいい、んだよね……！）
　慶介が決意を固めたのを見透かしたように、マイクが回ってくる。
　震える手でマイクを握って、慶介はそれでもすっくと立ち上がった。

　中学生の頃に寝子高の先輩や、先生たちを見て……とても尊敬できる人が沢山いて……
　キラキラしてたから、俺もそれに近付けたらと思って……ここに来ました！

　辺りを、ぐるりと見回す。
　新１年生の仲間達や、こちらを見守る先生達に、上級生達の顔。
　息を吐いて、大きく吸い込んで。慶介は、はきはきと言葉を続けた。

　だから、俺はこの高校で三年間、楽しいことも、辛いことも……色々経験して学びます！
　そして、成長した俺の姿を見て、また誰かがここに来てくれたらって……そう思います
　そうなれるよう、頑張ります

　ぺこりと頭を下げて、慶介は席に着く。
（なんとか、言えた……！　よかった……！）
　安堵が胸をあたたかく満たしていくのを、慶介は感じた。
　それから――達成感に、幾らかの高揚感も。
（なんだか、いよいよって感じがするな……これから三年間、がんばろう！）
　改めて胸に誓って、慶介は真っ直ぐに前を向いた。
　自分と同じ新１年生達が次々と《新入生の誓い》を終えていく中で、衿花は、
（突然のことでびっくりしたけど、何とかこの局面を切り抜けたいわ）
　なんて、クールな眼差しの奥、懸命に思考を巡らせる。
　正直、「どうしよう……」と思わなくもないのだが、それでもマイクは回ってくるわけで。
　それをきちりと受け取って、衿花はしゃんと背筋を伸ばして立ち上がった。

　新入生の誓い。１年２組、貴家衿花
　勉強も頑張りますが、勉強以外も色んな事を頑張りたいです
　多くのことを、学んでいきたいです

　いっそ不機嫌に見えるほど、ぴしりと言い切って席に着く衿花。けれど内心は、
（緊張したけど、上手く言えていたのかしら……）
　という具合で、心臓をバクバクとさせていたのだった。

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