城柳塾：CMナレーションをやってみよう！｜リアクション

城柳塾：CMナレーションをやってみよう！

　演劇部同士でペアを組んだナスティ・クローヴァと桃川圭花が担当するのは、ペットボトルに入っているお茶のCMである。自動販売機の定番商品だ。
「圭花さん、よろしくお願いします」
「こちらこそよろしくね。ナスティさん」
　自分よりも背の高い女の子と話すのを新鮮に感じながら圭花が軽快に挨拶をする。フィギュアスケート選手であるナスティも人に見られることに慣れているひとりだ。彼女からも吸収できることは多いだろう。今日はついているわね、と圭花のやる気が高まった。

◆お茶：大和緑（やまとみどり）
A『徹底的に温度にこだわることで生まれた美しい色、大和緑』
B『ため息がこぼれる上質な甘み』
A『繊細で丁寧。凛とした旨味』
B『和の心、大和緑』

　台本を読んだナスティが不思議そうに首をかしげる。今回は芸能関係の人物に城柳先生のワークショップを紹介されて参加していた。
「圭花さん、質問してもいいでしょうか」
「ええ。なあに？」
「私の国、ロシアでは紅茶はジャムと一緒に楽しみます。ロシアのお茶はとても甘いです。大和緑は飲んだことがありますが……日本人にとって、このお茶はとても甘いのでしょうか？」
「とてもいい質問ね。どう答えようかしら」
（日本の感覚、まだ掴みきれていないようです）
　セリフの真意がわからず、銀盤の白い妖精は扇のようなまつげで瞳を隠した。
「ここで言う『甘い』は『旨み』と『渋みの少なさ』を指しているわ。ナスティさん、大和緑以外の緑茶を飲んだことはあるかしら」
「はい、何度か。確かにそちらのお茶は……葉っぱのお野菜？に近い味がしました。苦いです」
「そうね、それが渋み。旨みは、今回のCMでは『おいしさ』と考えればいいと思うわ。大和緑は有名なお茶屋とコラボして生まれた商品らしいの。だから味にこだわりがあると言いたいんでしょうね」
「歴史と伝統を……大事にしているのですね？」
「ええ。私はセリフからその道で生きてきた人の誇りを感じたわ。演じる場合は低めの声で知的な話し方がよさそうね」
「桃川さん、台本への愛情が深くて素晴らしいわ！　あなたの考えていることをすぐにまとめて言葉にできる力は貴重ね」
「……城柳先生！」
　圭花が台本から顔を上げるとニコニコ笑顔の城柳先生が、圭花とナスティを優しい瞳で見つめていた。
「ナスティさんは文化の違いでわからない部分をきちんと確認できる姿勢が素晴らしいわ。理解して納得することでセリフに説得力が生まれるの。ナスティさんはそれをよく知っているのね」
「ありがとうございます」
　褒められてナスティがくすぐったそうにはにかむ。
「ほかに気になるところはあるかしら？　解釈や活舌、何でも聞いてね」
「あっ。ありがとうございます！　じゃあ、間の取り方についてなんですが――」
「私も日本語のイントネーションを聞いていただきたいです」
　ふたりの意欲的な生徒からの質問に、城柳先生は丁寧に答えていった。