新年度のはじまりはじまり。芸術科編｜リアクション

新年度のはじまりはじまり。芸術科編

●いつものやりとり

如月蘇芳は美の泉に１人で来ていた。

「へえ、これが美の泉かあ。自然のグラデーションは綺麗だね」

そんな感想を抱いていると後ろから声が聞こえてくる。

「わぁ、とーってもキレーな泉ですねぇ♪　……こんにちはぁ、すおーさんっ?」

声の主は天宮城因。軽快な足取りで蘇芳のほうへ近づいてくる。
「せっかくのレクリエーションなのに一人ぼっちなんて、女の子にモテモテのすおーさんらしくないですねぇ？」
「そんなときもあるよ。それよりここの水は肌に付けると美しくなれるらしいよ。試してみたら？」
「えぇ～？そんなものなくっても、因は元からとーっても可愛いと思いませんかぁ？」

蘇芳は無言の笑顔で返す。
因も負けじと言葉を続ける。

「すおーさんにこそあのお水が必要だと思いますよぉ、因の可愛さがわかんない美的感覚なんて芸術科のヒトとして致命的ですしぃ……それに、何より心が真～～っ黒なんですもんっ！」
「そうかな？　因君のこと可愛いなんて思ったことないんだよね。顔から性格の悪さが滲み出てるからかもね？」
「人の心配より自分の心配した方がいいと思いますよぉ～？」
「ふふ、大きなお世話だよ」
「最初に余計なお世話を言い出したのはすおーさんでしょお？　まったくもうっ＞＜」

蘇芳は微笑みを浮かべ、因も笑顔で会話をしている。
しかし、どこか黒い空気が漂っているように感じられる。
腹黒同士、良くも悪くも波長があうのかもしれない。
２人からすれば、この不穏ともいえる空気でのやりとりは慣れたものである。

きっとこれから先も、こんな会話を事あるごとに繰り広げることだろう。

　　　* * *

●これからを想う

三宅葉月は午後からのレクリエーションに参加し、千年杉と美の泉を目指して歩いていた。
弁当のほかに、スケッチブックと７２色の色鉛筆をかばんに入れている。

彼女は見た目の印象もあってどこか近寄りがたい印象がある。
しかし話しかけられれば、饒舌ではないが淡々とした様子で返事をする。
基本的には聞き役にまわる。
人嫌いというわけではないので、それなりに人との会話は楽しんでいる。

そうこうしているうちに美の泉に到着した。
紙を浸すと虹色のグラデーションに染まるという噂は既に聞いている。
とりあえずスケッチブックから１枚ちぎり、それを泉に浸した。
それを乾かすと、噂に聞いたとおり、泉の色を写し取ったかのようなグラデーションを織り成して染まった。
その虹の色を見ながら、高校最後の１年を想った。

進路のこと。父親のこと。
人生で最も苛烈になるだろう、その１年を。

　　　* * *

●虹色の使い道

葉月が泉に到着したのと同じ頃、クラスメイトの折紙一月も泉にきていた。
とはいえ２人の位置は離れているので、お互いに気づいていない。

「紙を浸して乾かすと虹のグラデーションに……？」

噂自体は聞いたものの、信じられないといった様子の一月。
無理もないだろう。しかし試すだけ試してみようと手持ちの紙を浸して乾かす。

すると、見事に泉と同じく虹色のグラデーションに染まっている。

「本当だ。綺麗だな。スキャンして次の新刊の表紙にでも使おう」

次の新刊はこの独特な表紙がファンの間で話題になるかもしれない。