新年度のはじまりはじまり。芸術科編｜リアクション

新年度のはじまりはじまり。芸術科編

■千年杉と美の泉

午後からは芸術科のレクリエーション。千年杉へのピクニック。
千年杉は砂掛谷から北西にある巨木で、
その近くにはこの時期にだけ出現する虹色の温泉『美の泉』がある。
ミネラル豊富な水質のおかげで色彩豊かなグラデーションを描く、大変美しい場所である。

　　　* * *

●思い出

青山絢は山道を登り、千年杉と美の泉へ向かっていた。
かばんのなかには今朝、自分で作った弁当が入っている。

千年杉に到着すると、その大きさに圧倒される。
その近くの木陰に、他の子たちと一緒に昼食を食べるために腰掛ける。

持ってきた弁当の中身はサンドイッチとミルクティー。
弁当の中身だけでも、皆それぞれの個性を感じる。
それを食べながら去年から今まで、それにこれからのこと。
自己紹介の時間では足りなかった部分を補うように、お互いの交流を深めていく。

そのなかで『美の泉』の話題が出てきた。
この時期にだけ現れる、虹色の温泉。
なんでもこの泉の水を肌につけると、美しさ１２０％になるという噂があるらしい。

「ほんとかな……でも美肌になるなら入りたいな」

そんな会話を続ける。
実際に入ったらどうなるんだろうか。
現実問題として、水着も持参していないし入れるわけないけど。

（……夜にこっそり、ここに浸かろうかしら？）

そんなことを密かに思う絢だった。

昼食も食べ終わり、千年杉や美の泉など景色を見て回る。
皆に頼まれるままに、写真も撮った。

これからの１年、一緒に過ごすクラスメイトとの思い出の写真。

　　　* * *

●寝子島らしさ

黛結はどうにかこうにか、千年杉と美の泉を目指す。
体力が本当に無いので、息があがらないように、ゆっくりと向かう。
誰かに話しかけたり、そんな余裕は無い。
少し寂しくもあるが、美の泉のことはそれなりに楽しみなので、どうにか頑張る。

へとへとになりつつも、なんとか美の泉に到着した。
目の前には、話に聞いたとおり虹色のグラデーションを描く泉。

結がここまで頑張って訪れたのには理由がある。
それはこの泉で布を染めること。かばんから持ってきた白の手ぬぐいを２枚取り出す。
これをゆっくり、慎重に、泉に浸す。

（うまく染まってくれたら嬉しいけど……）

浸している間に盥や薬液などの準備も行う。
これらが結構な荷物で、道中苦戦した要因の１つでもある。

頃合をみて泉から布を取り出し、いくつかの工程を経て染め上げていく。
紙を浸すと染まるとは聞いていたが、布だとどうだろうか。
その不安はあったが、それほど悪くない仕上がりになった。

（真っ白手ぬぐいと、鮮やかな色。この島らしくてちょっと楽しい気がするの）

乾燥のために干している手ぬぐいを眺めながら、結はそんなことを思った。

　　　* * *

●人面魚と虹色の紙

「ピクニックですわ！」

上下左右は嬉しそうに目的地へと進んでいく。
楽しいことが好きな彼女にとって
ピクニックというのは、テンションを上がるには十分なイベントだった。
美の泉では紙を浸して乾かすと虹色に染まるといわれている。
彼女もそれを楽しみにひたすら歩いている。

どれくらい経っただろうか。
ついに目的地・美の泉に到着した。

「これが噂の『美の泉』ですのね……」

ミネラル豊富な水質によって生まれた、色彩豊かなグラデーションを描く泉。
左右はさっそくノートを取り出して、その一部を泉に浸し、乾かす。
すると、浸す前は白かった紙が綺麗な虹色に染まっている。

「お～！　とてもきれいな虹色になりましたわ！　これを活かして絵を描いてみましょうか」

手ごろな場所に腰を下ろすと、絵を描くのに必要な道具を整える。
周囲を観察して、その景色を紙のグラデーションに合わせて落とし込む。
肉眼で見えている風景が、虹色のなかで一味違う輝きを見せていた。

ふと、水の跳ねる音につられて視線を移す。
そこには人面魚がいた。噂に聞く伝説の美の人面魚「ビジョーニャ」だろう。

「あら、美しいお魚さんが。こーんにちわっ」

そうだ、と左右はふと思いついた。
この魚も絵に取り入れようと。

虹色に染まった紙に描かれた風景と魚。
この絵をみるたびに、ここでの出来事を思い出すことだろう。