新年度のはじまりはじまり。芸術科編｜リアクション

新年度のはじまりはじまり。芸術科編

■３年７組・ホームルーム

「クラス替え……３－７……」

三宅葉月は教室入り口にある札を見ながら呟いた。
そういえば去年は２－７、１年生のときも１－７。
妙に縁がある……と思ったものの、ただ同じ数字が続いただけで特に意味はないとも感じた。

３年生の始まり。あと１年で卒業するという事実を実感する。
自分のなかで進路はもう明確に決まっている。
しかし、そのためには父親と決着をつけなくてはならない。
娘の才能を素直に褒めることができず、難題を成功や成長のためではなく、挫折させるために出し続ける。
彼はそういう人だった。

だが彼女はどれだけ困難であろうとも、信念を貫くために選んだ道を進み続ける。
その生き方を、改めて自分のなかに強く描いた。

「新しいクラスは、と……。７組……ここかな？」

如月蘇芳は自分の新しい教室を確認すると、なかに入っていく。
自分の席を確認しつつ、周囲をみる。

（あれ、あの人は確か……）

見覚えのある人影をみつけて近づいていく。その先には折紙一月がいた。

「おはよう。はじめまして、かな？　俺は如月蘇芳。君のこと、アカリ君の家に行くとき見かけてたけど、まさか同じクラスになるとは思ってなかったよ」
「来島の知り合いか」

初対面だったが、知り合いの友人だと分かると少しだけ態度を軟化させた。

「よろしく。俺の事は折紙でも一月でも好きに呼んでくれて構わない」
「好きに……じゃあ一月君と呼ばせてもらうよ。うん、よろしくね」

蘇芳は微笑みながらそう答えた。
一月はその顔をじっと見つめる。

（それにしても来島は本人も綺麗な顔だが知り合いまで綺麗な顔をしているんだな）
（交友を深めればモデルになってくれるだろうか）

「どうしたの、そんなに顔見て……なんか変なこと考えてる？」

その後も簡単なやりとりを交わすと、蘇芳はその場から立去ろうとする。
そのとき、思い出したかのように一月のほうを振り返る。

「……うちの大事なアカリ君にあまり手出さないでね？」

にっこりと優しく笑っているが、どこか含みのある言い方だった。
そして去っていった。

（今のは釘を刺されたんだろうか……）

確認する術はないが、蘇芳の言い方から一月はそんな印象を受けた。
そういえば、と一月はクラスの生徒たちを観察する。
よく見ればこのクラス、顔面偏差値が高い。
見ていたら帰って作業をしたい衝動に駆られる一月だったが、
流石にホームルームが始まる前に帰るわけにもいかない。

作業というのは漫画である。
一月は趣味で萌え系美少女漫画を描いている。
公言しているわけではないので、知っている人は知っているという状態。

そんなことを思っているうちに、担任であるジャン・ポランスキーが教室にやってきた。

「はじめまして。ミーの名前はジャン・ポランスキー。よろしくだよ」

カタコトの日本語で簡単な自己紹介を始めるジャン。
それが終わると、今度は生徒たちに自己紹介を勧める。

生徒たちの自己紹介は滞りなく進み、葉月の番がやってきた。

「三宅葉月です。絵画専攻です。よろしくお願いします」

淡々とした自己紹介。
しかし緩くウェーブのかかった、翠の艶を持つ長い髪。
翡翠を思わせる色合いの瞳。
そういった彼女の持つ存在感は下手に言葉で飾らずとも、皆の印象に残った。

全員の自己紹介が終わり、ジャンもホームルームを終わらせる。
午後から千年杉と美の泉に行くことを伝えると、教室をあとにした。

残った生徒たちは思い思いに喋り始める。
自己紹介を聞いたあとなので、知らない人に話しかけるには丁度いいタイミング。
少しずつクラスの雰囲気が温まっているように思えた。