新年度のはじまりはじまり。芸術科編｜リアクション

新年度のはじまりはじまり。芸術科編

■２年８組・ホームルーム

来島アカリは自分の新しいクラス、２年８組の教室にやってきた。

「８組……っと、ここか」

教室に入り、ひととおり見渡す。

（……なんつーか、こう、すっげー認めたくねーんだけど、こう……）

ざっとクラスメイトを見ると、性別の壁を越えていそうな面子が集まっている。
その状況に複雑な表情をうかべるアカリ。

アカリよりも少し後のタイミングで、天宮城因が教室にやってきた。

「２年８組……ここが因の新しいクラスですねっ♪」
（……ま、クラスメイトとかどーでもいーんだけど）

因はアカリの姿を見つけると、そっと近づく。

「……あれぇ？　うふふ、こんにちは、アカリさんっ♪」
「……因、お前なんでここにいるわけ……？」

アカリは、ややげんなりとした顔で因のほうを見る。
嫌いではないが、あまり仲がいいほうではない。
一方、因もアカリを気に食わないと思っているものの、
いじるとおもしろいので、こうしてちょっかいをかけてくる。

「えー、何でって……自分のクラスにいたらダメなんですかぁ？」
「マジか……いや、別にいーんだけどさぁ……」
「でしょお？　１年間よろしくお願いしますね、アカリさんっ♪」
「あんま絡んでくんじゃねーぞ」
「えー、アカリさんってば意地悪ぅ、因とも遊んでくださいよおっ＞＜」

きっとこんなやりとりが、これからも続くことだろう。

騒がしい教室内に一人の人物が入ってくる。担任の富士山権蔵である。
高身長でしっかりした体格にも関わらず、女性のようなしなやかな足取りで教壇へ向かう。
その姿は見る者に圧倒的な印象を与える。

（……フジコ先生？　いや……演劇専攻だし、嬉しい、んだけど……）
（やっぱり、作為的な何かを感じる……！）

アカリが最初に感じたとおり、このクラスでは、性別にこだわる必要はないのかもしれない。
権蔵に促され、自己紹介を行っていく。
因は人懐っこく、アカリはどこかぶっきらぼうに。
夢宮瑠奈はのんびりポヤポヤとした印象を与えた。
そして桜月の番が回ってくる。

「桜月です。絵、というか服や装飾品のデザインをしています」
「星ヶ丘寮に住んでて、そこから通っています」
「体質で日差しに弱いので迷惑をかける事もあるかと思いますが、どうぞよろしくお願いします」

こんな感じでいいかな、と思いつつ椅子に座りなおす。
自己紹介は滞りなく進み、全員の紹介が終わったところで権蔵が口を開く。

「皆さんこれから１年よろしくね」
「午後からは千年杉と美の泉へ向かいますよ」

それぞれ期待を胸に午後を待つ。
教室で会話を弾ませる生徒たちのなか、月は権蔵のもとへ向かうと言葉をかける。

「富士山先生は男性ですよね？　でも女性的な口調や仕草、女性の持つ美しさへの感性を持っていると感じます」

権蔵は無表情のまま月の話を聞いている。

「女性の美しさを一番表現できるのは男性だと聞いたことがあります……この一年で富士山先生の女性の美しさを引き出すための手法を私なりに学んでいきたいです」
「そして、それを私のデザインに生かせれば……どうぞよろしくお願いいたします」

そこまで言い終えると月は頭を下げた。
権蔵は、頑張りなさいね、と表情を崩さずに答えた。しかし視線はまっすぐ月を見ていた。
そして、名前はフジコ先生であり、それ以外の名前はないと付け加えた。

「富士山先生じゃダメなんですか？　わかりました、フジコ先生よろしくお願いいたします」

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