新年度のはじまりはじまり。普通科編｜リアクション

新年度のはじまりはじまり。普通科編

●ぽかぽかするはるとこころ
　新聞部の顧問である黒崎俊介と、その新聞部の部長である八神修。
　修はピクニック中、積極的にクラスを取りまとめ、黒崎に報告をしていた。
　集合時間や伝達事項を確認し、それをまた皆に伝え。
　ひと段落つき、やっと自分の自由時間となった所で……
「あ、いた、修君」
　七夜あおいの言葉に振り向けば、あおいの笑顔。自然と己の表情が微笑みに変わるのを修は感じた。

「修君、忙しそうだったね」
「いや、そんなことないよ。待たせたなら申し訳なかった」
「うぅん、全然大丈夫だよ」
　ぶんぶんと頭を振るあおいに感謝しつつ。
「そうだ、あおい。せっかくだし、ボートの上で昼食を取らないか？
　そう修が提案したところ
「面白そう！」
　あおいは楽しそうな笑みと共に頷くのだった。
　
　はじめは男らしく、修がボートを漕ぎ。
　グングンと進むボートにあおいは楽しそうに目を細めていた。
　湖の上を流れる風によりあおいのツインテールがふわりと揺れるのを、修は感慨深げに見つめた。
「修君、上手だねー」
　あおいの視線は、ボートを漕ぐ修の手の動きに注がれている。
「……あおいも、漕いでみたい？」
「ちょっと興味あるけれど、難しそう……」
　それじゃあ、と修はあおいに提案する。
「あおい、動ける？　こっち来て」
　修が手招きすれば、あおいは言われるがままに修の隣に腰をかけた。
「こう、かな？」
「一つずつオールを持って……で、これをこう、動かすんだ」
　一隻のボートを、二人隣り合って漕ぎだす。
「む、難しいね、修くん……」
　二人の息が合わないと、共同で一隻のボートを漕ぐのは難しい。
　力のバランスによって、ボートはぐるぐると旋回を始めだした。
　しかしそんな状態にも、あおいはキャッキャと面白そうに笑っている。
「やっぱり難しいね」
「大丈夫だよ、あおい」
　徐々に、あおいの漕ぐペースを掴み。修が彼女に合わせて動けば……優雅にボートは三夜湖を真っ直ぐ進み始めた。

「あー、面白いねぇ」
「運動したからか、お腹も空いてきたな」
「あたしも」
　そう言い合うと、二人はボートを漕ぐ手を止めた。
　そして、お互いが持ち寄ったお弁当をボート上で広げ出す。
　あおいは自分で用意したおにぎり弁当。
　残念ながら、おにぎりがいびつな形をしていたり、おかずのからあげもあり得ない黒々とした色味。
　修はミニパンのサンドイッチセットを持参していた。
「え、修君、パンも自家製なの？」
「あぁ、焼いてみたんだ」
　よかったら食べて、とあおいに勧めれば。ありがとう、とあおいがミニサイズのパンを口に運ぶ。
「わぁあ、美味しい……！」
「本当か？　よかった」
　頬に手を添え、美味しそうな表情を見せるあおいに
「まだたくさんあるから、よかったら食べて。おかずもあるし」
　出し巻き玉子は精進が必要だけど、と言葉を添えれば
「でも、手作り感がちゃんとあって良いと思うな、それに……美味しいし」
　あたしのも、よかったら……とおかず交換。
　あおいの作る食事はそれはそれは残念なものではある、が。
「……ぉ、美味しいよ、あおい」
　冷や汗を隠し、修は口角を思い切り釣り上げる。
　……愛の力は、偉大なのである。

　修はゆっくりとボートを漕ぎ、ボート乗り場へ近づいて行く。
「修君、誘ってくれてありがとう」
　楽しかったぁ、と笑顔を見せるあおい。
　そんな彼女の表情に、修の心が柔らかな気持ちで充満してくのを感じ。
「あおいといるとぽかぽかするよ」
　ニコリ、と笑めばあおいは照れた表情を見せながらもありがとう、と微笑んだ。
「また明日からも、よろしく」
「こちらこそだよ、修君。これからも、よろしくね」

　例え、クラスが離れていても。
（これからあおいと過ごす時間を、今まで以上に幸せで楽しいものにしよう）
　修は、誓うのだった。