新年度のはじまりはじまり。普通科編｜リアクション

新年度のはじまりはじまり。普通科編

●３年４組の光景
　葉利沢倫理子は、とてつもない倦怠感に襲われていた。
　元々、身体が丈夫ではない倫理子。校長の長話を立ちっぱなしで聞くことなど、苦行どころの話ではない。
　そんな長話が終わり、ゆっくりとした足取りで新たな教室に向かっていた。
（もうすぐ、教室ね……あっ）
　フラリと、少しだけ足がよろける。
「おい、葉利沢。大丈夫か？」
　倫理子に声がかかる。振り向けば龍目豪の姿。二人共、旧２年３組同士だったため存在は認識しており。
「大丈夫よ、ありがとう」
　俯きながらも、豪に返事をする倫理子。
「あんま無理すんなよ。……あと、今年もよろしくな」
　豪はそう言うと、４組の教室へ入っていった。

（なんとか、保健室送りにはならなさそうね）
　教室で倫理子は自分の席に辿き、すぐさま机に突っ伏した。
　昨年の二学期の終業式では結局保健室に行くことになったことを考えれば、少しは体力もついてきたのかもしれない。
　周りのクラスメイトたちによる、賑やかな声が倫理子の頭に響く。
（……たとえ、体力があったとしても、こんな明るい声なんて出さないけれど）
　周りの声を意識から遠ざけ、倫理子は己の体力の回復を待つのだった。

●３年４組の自己紹介
　始業の鐘が鳴り。ドスドスとした足音と共に３年５組の担任として現れたのは、大柴ツヤ子。
　真っ赤な髪はマッシュルームカット、分厚いタラコ唇は髪の色に負けないぐらい真っ赤な色で彩られ。
　ドラム缶のような体型で、身振り手振りも、更に声も大きいツヤ子はザ・豪快。
（……合わなさそう）
　倫理子は、２秒で担任が己と正反対の気質であることを悟った。

「それじゃあ、初めて同じクラスになる人もいるでしょうし、自己紹介しましょうね！」
　始まるクラスメイトの自己紹介。
　豪は、自己紹介で冒険部の話を面白おかしく皆に話し、ツヤ子は何度もガハハハ！　と笑い声を響かせていた。
「じゃあ、次は葉利沢さん」
「はい」
　控えめな声と共に倫理子は立ち上がった。
「葉利沢倫理子です。昨年は３組でした。……よろしくお願いします」
　そして淡々と、必要最低限を伝え着席した。
　その後も生徒たちの自己紹介は滞りなく続いて行く。
（私は存在感の薄い生徒として記憶されると思うけど、その方が都合がいいわ……）
　倫理子はそっと、視線を窓の外に移すのだった。