新年度のはじまりはじまり。普通科編｜リアクション

新年度のはじまりはじまり。普通科編

●３年２組の自己紹介
「ちょり～ッス！　俺、南波太陽ッス！　夢はマジ宇宙に行くこと！　ロケットで！」
　明るい笑みをまき散らしながら、陽気な声で夢を語るのは南波太陽。
　金髪で長身。そして見た目通りに、軽い。っていうか、チャラい。
（見るからに、私と対極の世界です……）
　太陽の自己紹介を聞きながら、彼の大きな声に時折ビクッと体を震わせる錦織彩。
　出来るだけ教室の隅でレース編みに興じていたい。人前で話すなんてもっての外。もうすぐ自分に回ってくる自己紹介だって逃げたいくらいなのに。
（どうしてこの人はこんなに喋れるんだろう……）
「でもって、マジ新しい星見つけて、俺の名前とかつけちゃったり、人類初めて宇宙人との遭遇を……」
「わかりました、ありがとうございます、南波君。ロマンがあって素敵だと思います」
　おっとりにっこり、柔らかな笑顔で太陽の話をや～んわり遮るのは、３年２組の担任となった大橋尚。
　放っておけば、いつまでも喋っていそうな太陽だったが、尚の言葉でやっと席に着く。

　そして、ついにめぐってくる彩の自己紹介。
　尚に名を呼ばれ、席から立つ。緊張に、己の足が震えるのを感じてしまう。
　クラスメイトの視線が彩に注がれれば、みるみる内に顔が紅潮していくのが自分でもわかる。
「あ、あの……錦織彩、です……」
　尻つぼみに小さくなる言葉。続けて何を言えばいいかわからなくなり、頭が真っ白になる。
　その時。
「彩っち、好きなものは？」
　こっそり、彩にだけ投げかけられた言葉。
「好きなもの……は、あの、刺繍が好き、で……家庭科同好会に、所属しています」
　震える声でよろしくお願いします、とお辞儀をし。彩はこそこそと席についた。
　誰の言葉だろう？　あたりを見回すも、視線が合うものは見つけられなかった。