あなたの挑む星幽塔｜リアクション

あなたの挑む星幽塔

　キャットロードにティオレ・ユリウェイスは素の表情で突っ立っていた。
「……ここは？」
　茶色のポニーテールを左右に振って通りに目をやる。以前に見たことがあるのか。道路を隔てたところにある洋服店を睨み付けた。
　大きな溜息を吐くと自然に頭が垂れる。続いて自身の服装に青い瞳を注ぐ。
　レザージャケットには鋲が付いていて鋭利な刃物のような光沢を放っていた。前は大きくはだけている。胸を強調するようなバンドゥビキニが付けられていた。下はスリムなパンツ。幾つかの破れが目に留まる。履いているブーツは赤く、攻撃的なデザインが猛り狂う炎を思わせた。
　――また、ネコジマに飛ばされたみたいね。それにこの格好、派手で盗賊に見えないよ。
　胸中の愚痴で少し気が晴れたのか。大きな一歩で歩き出す。耳に嵌めた複数のピアスが涼しげな音を立てた。腹部の薔薇のタトゥーとへそピアスが如何にも艶めかしい。
　行く先々で男性の目が集まる。溜息の数は多くなり、適当に見つけた書店に踏み込んだ。
　無限の白の出迎えに苦笑いを浮かべた。
「また、おかしなところに来たみたいね」
「いらっしゃいませ」
　ティオレは目を瞬かせる。正面に白いタキシードを着た人物がいた。
「最初はいなかったよね、そこに？」
「お客様の視覚的な意味ではそうなりますが、この空間の全てに私は存在しています」
「これ以上の説明は頭が痛くなりそうだから遠慮するわ。それよりも、ここの用途を手短に教えてくれる？」
　白い空間に目をやりながらティオレは言った。
「只今、過去創造館では寝子島の上空に浮かぶ、星幽塔の世界の再現を行なっています」
「私、そこの住人だけど」
「解析の結果で存じております。当館の再現は五感に作用しますので、お客様にもご満足いただけると思います」
　ティオレは値踏みするような目付きとなった。
「……自信は本物みたいね。再現に期待してもいいのよね？」
「おっしゃる通りです」
　速やかに再現が可能な世界の説明に入る。最後まで黙って聞いていたティオレは適当に一つの世界を選んだ。
　タキシードの人物は恭しく頭を下げる。
「いってらっしゃいませ」
　その一言が旅立ちの合図となった。

　世界は一変した。黒い大地の割れ目から細い噴煙が絶え間なく上がる。熱された空気は無色の炎のように揺らめいていた。
　ティオレは自身の姿に目をやる。身軽な服装は高熱に耐えられるような仕様になっていた。想像した通りであった。
　――本当に熱いわ。重装備にならない範囲で、耐熱加工した装備が気休めにしかならないなんて。息を吸うだけで痛い。
　身を隠す場所もない。顎先からは汗が滴る。立っているだけで大地に体力を吸われていく。
　ティオレはふらりと一歩を踏み出した。頼りない足取りでとにかく歩いた。
「どこかに、行かないと。足の裏が、焼けそうよ」
　両腕をだらりと下げた。足を引き摺るようにして前へと進む。軽く頭を振った。目は虚ろとなり、唇が僅かに開いた。
「……腕が、重い……捨てたい、気分ね……」
　意識まで朦朧としてきたのか。狂気じみた発想に唇を歪めて嗤った。
　目が瞬間的に動いた。不意打ちを狙うような角度から熱の塊が迫る。踏み出そうとした足を引き戻し、上体を極限まで逸らして切り抜けた。
「サラマンダーね」
　四足歩行のトカゲは人の大きさに等しい。威嚇するかのように大きく口を開けた。その姿で激しく身体を揺さぶる。炎の背びれが背中一面に広がった。
「暑苦しいわね」
　汗が滴る状態でティオレは言った。
　言葉の意味を理解したかのようにサラマンダーが突進する。標的にされた足を引いて簡単に避けた。即座の攻撃にも対応して後方に跳んだ。
「盗賊を、甘くみないことね」
　強気の発言を身体が裏切る。体力の限界を告げるように膝が笑った。
　サラマンダーが飛び掛かる。大口を開けて火まで噴いた。
「これは、仕方ないわ」
　膝と同様にティオレは笑って炎に包まれた。

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