【美和ちゃん先生の重婚ウェディング（２）】

「あはははっ♪　つかまえてごらんなさーい☆」
「はははは！　待て待てぇ、こいつぅ～☆」
　これは美和先生および花嫁花婿たちのための式であったはずですけれど、ともかくはこちらのシーンからご覧ください。
　なお上のセリフはまるでお姫さまのようなピンクのフリフリドレスルックになった化神 小次郎、下はぱっつんぱっつんの白いタキシードに王冠をかぶった王子さま、綺麗な吉田 熊吉先生のものであります。
「つかまえた！　ふふふ、イタズラお姫さまめ。もう逃がさないぞぅ」
「うふふ。あたしの王子さま……なんて素敵なのかしら」
　もとよりなにかと、妄想にとらわれがちな小次郎ちゃん。恋愛にはどうにも縁遠かった中学生時代を自らの黒歴史と呼ぶほどに、色恋沙汰には人並みならぬ興味がありました。
　本日こうして現実となった彼女のウソには、そんな過去の反動と、それに……潜在意識の底の底で密かに抱く、熊吉先生への恋心が影響していたことを、本人もまた知る由もありません。
　そう。小次郎が高校生となり晴れて恋に落ちたのは、かのクマ先生でありました……！
「さあ行こう、僕の花嫁。僕らの城へ……そこで盛大な結婚式を挙げよう！」
「ああっ、熊吉先生。カッコイイ……！」
　どこからか現れた白馬にまたがり、ハイヨー！　と、これまたいつの間にやら出現したお花畑をぱっかぱっかと駆け抜けて、ふたりは去っていきました。
「中学時代は荒くれてたアタシに、こんな素敵な王子さまが現れてくれるなんて……最高に、幸せ♪」
　十数時間後。日が変わってから彼女はこのことを思い出し、盛大に悶絶するわけですけれど……その微笑ましいシーンは、また後ほどに。



　さて、本題です。美和ちゃん先生の結婚式です。
「……決闘よッ！！」
　目を戻してみますと何やら、こちらはこちらで奇妙な成り行きになっていたりしました。
　ぴしゃり！　とあるモブ花婿の一団へ、白い手袋を勢いよく叩きつけたのは、神薙 焔であります。
「え～なになに～？　なんなの焔チャン～、なにキレちゃってんの～？　うっそガチギレ～？」
「俺らこんなに美和ッチを愛してんだよ～。マジマジ、ウソじゃないよ～」
「一緒に結婚する仲じゃ～ん、焔チャンも仲良くしようよ～」
　チャラチャラとしたモブ花婿たちは、馴れ馴れしくネットリと言いながら焔の肩へ手を回そうとしますけれど。焔はそれを払いのけ、びしりっと指を突きつけます。
「よくよく見たらあなたたち、ねこったーで大炎上してたナンパ師集団じゃない。というか、ほとんど結婚詐欺団よね……ちっとも懲りてないようね？」
「ほう？　それは聞き捨てならんな」
　ざざん！　焔に並び立つのはヨハン・プレストンに、深縹 露草。恋愛経験値ゼロで無防備な美和ちゃん先生を騙そうなどという不届きモノが紛れ込んでいたと聞き、彼らは花嫁を守るべく立ちあがります。
「私の愛する美和を、くだらん詐欺の餌食にしようとは。許せんな」
「まったくデースね！」
　ヨハンはじゃきんっと両手にオートマチック銃を構え……あ、エイプリルフールなので、細かいところは気にしないということでひとつ。露草は隣で、ペンと紙を取り出します。
「何を隠そう……私は紋章で魔法を使う、魔法使い！　紋章ひとつ描いて念じれば、あなたたちを吹きとばしてしまうことなどわけないデース。ＨＡＨＡＨＡ！」
「ちっ。めんどくせーなぁ……バカ女ひとり騙すだけのボロい仕事かと思ったのによー」
　舌打ちしつつ正体を現した、彼らはなんと結婚詐欺団！　白いタキシードを脱ぎ捨てると、中には黒ずくめに真っ赤なタイのスーツ姿。胸ポケットには真紅の薔薇が差さっていて、手にはギラつくナイフが光っております。
「……『花嫁の愛は、剣の形になる』！」
　鋭く口走ったのは、焔。きらり！　手の中へと現れるのは、ひと振りの剣！
「って、日本のアニメで言ってたわ。悪の手に、美和ちゃん先生は指一本触れさせない！　行くわよ、花婿たち！」
「ああ、任せろ」
「お仕置きデース！」
「ちっ。ガキどもが、いきがってんじゃねー！　お前ら、やっちめえ！！」
　３０年前のアニメのようなステロセリフを吐いて飛びかかってくる黒ずくめたちを、焔の剣がずばずびずしゃんと翻り、ヨハンの銃はぱぱぱぱぱんと火を噴いて、露草の紋章魔法が稲妻を呼び、がらがらごろん！　迎え撃ちます。ところでこれ、何のお話でしたっけね！
　ちなみに当の美和先生はと言いますと、花嫁の鮫島 裕也じゃなかった猫島 悠華にむぎゅっと抱き着いて怯えた顔をしながら、
「やめてぇ、みんな！　私のために争わないでーっ！」
「……先生。本音は？」
「これ、人生で一度は言ってみたいセリフ第３位だったの。夢がひとつ叶ったわ♪」
「うーん。１位と２位は、聞かないでおこうかな……☆」
　ヘタなことを言うと余計なカオスを呼び込んでしまいそうなので、もろもろあって危機回避能力には定評のある悠華は、にへらと笑ってごまかしました。
「あ、ほらほら絢ちゃんに五月ちゃん、撮って撮って！　一生に一度の結婚式だもの、ちゃんと記念に残しておかなくっちゃ！」
　なんて楽しそうな先生に、青山 絢と薄野 五月は思わず顔を見合わせます。
「ああ、もう何が何だか……結婚式ってこういうものだった？　というかこんなところ、撮ってもいいの？」
「やー、みっちゃん先生が楽しそうなのが一番ではないですかねー」
　ちょっと想像していたカンジとは違いますけれど、なんだかんだで先生は幸せそうに微笑んでいます。
　ふたりは苦笑いしながらも、繰り広げられている花婿たちの戦いをバックに、カメラに向かってダブルピースをキメる能天気な先生を、パシャリと写しました。



「病める時も健やかなる時も、まゆ先生の事を絶対に幸せにします！　だから……俺の妻になってください！　愛してますよ、まゆ先生！」
「りゅ、竜司くん……♪」
　いっぽう、こちらは冴木 竜司とまゆちゃん先生。イチャイチャモードでふたりの世界に入り込んでいるところですけれど……そこへ来襲するは、小さな刺客！
「よ、よし。それじゃ次は、誓いのき、き、キスを……」
「お兄ちゃんッ！！」
「！？　げえっ……つ、つくしちゃん！？」
　ナニが小さいとか言いませんけれど、ともかく鬼崎 つくし！！
「つくしちゃん、なんで包丁なんて持って……」
「お兄ちゃんどいて！　その女殺せない！！」
「ええっ、あたし！？」
　言わずと知れたことながら、つくしは竜司お兄ちゃん激ラブ！　ひしっと抱き締め合う竜司とまゆ先生の固い愛を目の当たりにして、彼女はますます激昂します。
「お、落ち着いてくれつくしちゃん！！　いつも以上に怖いんだけど……！？」
「らっかみ！セカンドシーズン最初のシナリオですからね、ここは晴れて高校一年生になった私と竜司お兄ちゃんの、ラブラブっぷりを見せつける時！　朝は一緒の登校風景に始まり、昼は一緒に屋上で、手作りお弁当をお兄ちゃんに味わってもらうの。お兄ちゃん、あーんして？　あーん、ぱくっ。うん、美味いよつくしちゃん、さすがは俺の惚れた女だぜ、やだもうお兄ちゃんったらふふふふ♪　放課後は勉強を教えて貰いつつの図書館デートに興じた後、お兄ちゃんの部屋へ。ふたりは抑えきれない劣情に流されるまま抱き合いながらベッドへ倒れ込み、くんずほぐれつあんなことやこんなことまで……うへへ。うへへへへ……！　ってウソ設定を考えてたら、なんですかこれ！！　なんでお兄ちゃんのウソが優先されてるんですか！！　こっちのほうがキャラ的に面白そうだからって、背後の人の判断ですか！！」
「良く分からんがメタな話はやめてくれつくしちゃん！！　俺たちに背後の人なんていないんだぜ！？」
　ああ、なんたる不幸！　よりにもよって大好きなお兄ちゃんの想い人は、つくしが求めて止まない、実に立派なものをお持ちなのです。何がとは言いませんけれど、身体のどの部分がとか言いませんけれど、到底かなわないのです……！
「竜司くん、あたし怖いわ……！」
「だ、大丈夫だぜまゆ先生、必ず俺が守って……」
「そのおっぱいお化けを排除して今度こそ私のウソを再現してやるゥーーーっ！！」
「ぬおおーーーっ、つくしちゃああああああん！？」