双界からの試練　―紅玉の阿修羅姫ケイファ―｜リアクション

双界からの試練　―紅玉の阿修羅姫ケイファ―

「やりづらい相手ね……」
　思わず呟きながらも、碧南は気合をこめた拳を放つ。そこに向けられる炎は、赤い蝶となって飛んでいき、いつのまにか梢が見事な舞闘を見せていた。都が張っていた鉄線をも利用した、高所からの攻撃、『胡蝶拳・破』である。
「この私を利用するんです。結果出してくださいね？」
「おうよ！」
　『縮身』を利用して小さくなっていた亨が、梢から離れる。熱気に体が浮かびそうになりながらも降り立つのは、ケイファの体。そこを駆け巡り、拘束具付近で元に戻れば爪が閃く。

　――無粋な！

　火の玉が亨を狙うも、音を立てて打ち抜かれ霧散する。
「こっちも忘れないでもらうかなー」
　都が連続して矢を放てば、ケイファは身を庇うように炎を巻き起こす。それらが三度冒険者たちを襲い、梢はろっこんで蝶に変えていく。
　だが、間に合わない分も出てくる。スピカの周辺に張り巡らされた氷の鏡が輝きながら跳ね返すが、凜太郎や着ぐるみさんたちにはそういった物が無い。亮は舌打ちしながら土の壁を発動させ、円が指揮棒を振るい金属の壁を出現させる。
「耐熱ポーションを飲んでいても、この熱気は辛いな」
　修が水属性の魔法を強化する魔法陣に魔力を込め、威力を高める。徐々に氷棺の効果が薄れつつあるステージに、スピカの顔色が僅かに険しくなる。
（……予想より、早い。オサムの魔法の効果は……？）
　彼女は再び『銀界ニブルヘイム』を発動させようと槍を振るう。だが、それよりも早くケイファが手を閃かせ、スピカを指差した。同時にぼこり、と鈍い音を立てて氷を突き破る赤い侵食。マグマが噴出したのだ。集中が切れ、魔法がキャンセルとなり、スピカの表情が強張る。
「！　危ない！！」
　凛太郎がスピカを庇うように抱え、亮がその周辺へと『隆起槍』や土壁を出現させ、あがるように合図する。
「浮かぶ太鼓でよかったね」
　円の問いかけに着ぐるみさんがこくこく頷く。その傍らでは集中が切れたため再び集中しなおすスピカの姿が。凛太郎はバットステータス（以下ＢＳと表記）『火傷』を負った者がいないかチェックした上でスピカの傷を癒す。
「そ、そっち大丈夫？！　今治療するよ！」
　少し離れた場所の夏朝も、他のメンバーの傷を癒していく。手分けして治療する事で体制の立て直しもスムーズにいった。
「んー、スピカちゃんの大技ってすっごく便利何だけどなー。狙われやすいかー」
　円が指揮棒を巧みに扱い、『切り裂く右腕』を召還しケイファを牽制する。亮はマグマの吹き出た亀裂へと岩を押し込むように魔法を使い、他に罅割れがないかチェックしていく。
「拳闘士と軽戦士、重戦士がヘイトを上手く稼いでいると思ったんだが……。油断したかな？」
　亮の言葉に、凛太郎達はこの先どう動くか真剣に考えるのであった。

　マグマが吹き出る後衛部が避難している間に、前衛部も激戦が続いていた。
「交代で攻めるぞ」
「ああ！」
　楓と刀が頷きあい、拳闘士５人も力強く頷く。連携が鍵を握ると睨んだ楓は眼鏡を正しケイファを僅かに睨みながら走り出した。彼はその赤装束と周囲に溶け込むような動きで狙われにくく、死角から攻めるのに的確だった。
　楓の攻撃に気づいた頃には離脱しており、別の相手がそこにいるのも多い。
　重力攻撃で弾かれても、重戦士が残る率は高い。仮に軽戦士と拳闘士が全員飛ばされたとしても、彼女達がまだ立ちはだかっている。
「ヘイト管理って難しいねっ！　こっちでがんばってもスピカちゃん狙いの攻撃がいっちゃうもん」
「何言ってるんだい、アンタは。アタイたちの方が魅力的ってコト叩き込めばいいんじゃないのかい？」
　『ぷち☆めてお』を構えてため息をつく真白に、キャラになりきった樹が檄を飛ばす。そんな事を言い合いながらも樹は『大旋風』で打撃を加えながら高く飛び上がり、今度は真上から『大打撃』をかまそうとする。一方の真白は樹がはじかれたときのことを考えて少し下がり、回収を目論む。
「あの枷を壊してからが本番か……」