双界からの試練　―紅玉の阿修羅姫ケイファ―｜リアクション

双界からの試練　―紅玉の阿修羅姫ケイファ―

　刀が呟きながら脳裏に撃鉄を落す。ろっこん『加速』の進化能力で虚空を駆けると、樹の攻撃にあわせて切りかかる。
　ケイファが重力波で２人を弾くも、樹は見事に着地し、真白はバランスを崩しながらも刀を受け止める。その隙に真央、九月、梢、亨、碧南が僅かな間隔を開けて攻撃を見舞う。
　その間に下がった面々を、璃亜がすぐさま治療する。あわせて流がＢＳがついていないか確認し、手早くＨＰ自動回復魔法『芽吹きのアンダンテ』を施していく。
　元々流は必要に応じて前に出、前衛の治療に当たっている。璃亜もそのスタイルをとっているようだ。
「ＭＰ切れは怖いぞ。或る程度減ったらポーション飲んどけ」
「はいっ！　ありがとうございますっ」
　流からアドバイスを貰い、璃亜は己のＭＰをチェック。余裕がまだありそうだと考えた彼女はＭＰ回復ポーションを温存する事にした。
　一方の流は念のために、とポーションを飲み干す。そうしながらも、注意深く周辺の動向を追っていた。
（……ん？）
　そんな流の目が、ケイファの変化を捉えた。彼女は緩やかに舞う様な仕草を見せ、にっこりと笑う。そして……またも後方を指差した。
（さっきと同じ？！）
「後衛組、大技来るぞ！！　たぶんマグマが吹き出るから避難しろ！！」
　流の叫びと共に、音を立てて吹き出るマグマ。『紅蓮の波』が再び発動したかと思えば、今度は周囲がまぶしい光に襲われる。『日照りの庭』との併用。それが齎すのは……？
（後衛組への大規模攻撃……！）
　流の背中に、冷たい汗が流れる。

　――コレぐらい、覚悟できているわよね？

（……それぐらい、出来ている！）

　ケイファの声が、光の中から聞こえる。それでも、スピカは意識を集中し『銀界ニブルヘイム』を発動させる。光に煌く吹雪が、僅かなシルエットを浮かばせる。同時におこる重力波。飛ばされながらも、魔導士たちはチェーンソーの腕や岩の槍を出現させ、ケイファの真上から『氷弾』を打ち込む。『聖者の交信』はケイファにかかり難いが、ヒットすれば思考を多少なりとも読める。
「こっちだ！」
「上れるならあれもつかって！」
　亮が、都がそれぞれ作った足場を提示する。僅かな影を頼りに上る後衛組。修はマグマに消された魔法陣を、もう一度新たな地面へと刻み込む。
　こんな状況でも落ち着いている着ぐるみさんはノリノリでドラムを叩き水土奏『眠れる竜脈』へと曲を変える。そして、振り返った碧南がその場に居る前衛組と治癒士たちに檄を飛ばした。
「治癒士は後衛組を！　私達はあっちへむかうわよ！」
「わかってる！」
　夏朝が『金猫』を手早く施し、流がＢＳ『火傷』を負った亮へＢＳ解除のスキルを放つ。
凛太郎へは璃亜が施し、彼自身は己を含め周辺の仲間のＨＰ回復に努める。
「これ、飲んどけ！」
　ＭＰ回復ポーションをスピカへ投げ渡す刀。あれだけの大技を２度放っているのだ。
「……カタナ、ありがとう」
　スピカはぐっ、とポーションを呷る。その間に刀は力強く地面を蹴り、ケイファへと向かっていく。
「……もっと濃密に攻撃していこう。円ちゃん、魔法よろしくー！」
「あいよー！」
　真白がそう頼めば、円が拳を上げて答える。

　――さぁ、ここからが本番だ。

　彼らの顔に、諦めや躊躇いは一切無い。ケイファはそんな冒険者達に、うふふ、と楽しげに笑った。