双界からの試練　―紅玉の阿修羅姫ケイファ―｜リアクション

双界からの試練　―紅玉の阿修羅姫ケイファ―

　――待っていたわ、冒険者さん達。
　　　私と遊んでくれるのよね？

「勿論なのだ。いっしょに遊ぶのだ！」

　真央はろっこん『にゃにゃにゃがおー！』で呼び出したふくふくの三毛猫、がおーを頭に載せて燃えず石を渡り始める。それに続けとばかりに冒険者達が走り出した。

　遂に作戦は開始された。多くの冒険者がマグマから顔を出す燃えず石を軽快なリズムで渡っていく。
「いくぞ！」
　脳裏で撃鉄をガチン！　とならし、刀が突っ走る。ろっこん『加速』の進化能力で虚空を足場にする彼は、熱風すらも押しのける。
　彼に続けとばかりに亨がスキル『ラヴェージストライド』で敏捷性を上昇させ、燃えず石を跳ねるように渡っていく。楓も足が遅い職が立ち止まらないで済むよう、率先して座敷牢まで向かおうと走り、傍らの梢が飛んでくる石をろっこん『胡蝶の詩』の進化能力で蝶へと変化させる。紅蓮のマグマの上を舞う、朱色の蝶が、闇に幻想的な印象を与え、修が周辺に張った水膜が煌く。
　その中を、ブースターをつけた真白が円を抱えて飛んでいく。跳ねるマグマや小石が顔にぶつかろうとするが、それを真白は巧みに避け、２人は浮島に１番乗りする事ができた。
「流石に全部は避けられなかった……。円ちゃん、大丈夫？」
「へーき、へーき！　コレぐらい大丈夫！」
　心配する真白に、円はブイサイン。彼女達が上陸すると刀や亨、楓が到着。５人は先発隊として建物の中へ向かっていく。
　次々にマグマの海を渡っていく中、着ぐるみさんがドラムで土火奏『溶岩竜』を奏でみんなの防御力を上げた上で耐熱効果も底上げしてくれているのだがメロディーが微妙に不穏である。
「なんかケイファじゃなくて別の怪獣とか出てきそうなんだけど……」
　碧南の呟きに、都もまた「あー……」と納得するのだった。
　最後のほうをあえて走っていたスピカは浮島に到着するや否やすぐさま詠唱し魔力を溜める。傍らには重戦士の樹が控えており、いつでもスピカを庇えるように警戒している。反対側には凜太郎。すぐ強めの攻撃が来てもスピカを含む後方組を回復できるよう身構えている。
（なんか面白そうな事考えてるみたいだね）
　着ぐるみさんは内心で楽しげに笑いながら、演奏を続けるのだった。

　遅れ気味だった者たちがそろそろ渡りきろうとした時、先に渡りきって居た者たちが檻に突貫していた。
「離れていろ、ケイファ！」
　刀が手にした獲物を一閃させ、それに合わせ楓たちも攻撃を繰り出す。九月は「ノック代わりだよ！」とばかりにローラーブレードで強い一撃を見舞う。
「下がっていてくれ。今、そこから出す」
　修もまた氷のドリルで檻を攻撃する。
　冒険者達の攻撃が、格子やら扉やらにたたきつけられる。と、檻は派手な音を立てて破壊され、ケイファがゆっくりと姿を現した。この時、円は何かに気づいたのだろう、僅かに目を見開く。
（なんか、檻が壊れた途端魔力が消えた？）
　ケイファはにっこり笑うとふよふよとそこから出てくる。そして……徐に全身から炎を吹き出し、建物を一瞬にして灰に返した。どうやら、あの檻がケイファの力を封じていたらしい。

　――ありがとう、ここから出してくれて。

　ケイファが悠然とした雰囲気を纏ったまま礼をいう。だが、次の瞬間には闘志がみなぎり始めている。

　それを知ってか知らずか。ケイファはうふふ、と笑って瞳を細めた。

　――さぁ、私を楽しませて頂戴、冒険者さん達？

（熱波！？）
　楓が離れようとしたその瞬間、熱波が冒険者達に襲い掛かる。だが、それを生ぬるいと感じさせたのは、後方から流れ出る冷気。
「ここでなら、いける筈……！」
　熱波をも凍らせる、氷の女王の息吹。スピカが準備していた大技――水属性遠距離範囲攻撃『銀界ニブルヘイム』が発動し、マグマが凍りつく。ケイファは一瞬にして変化した戦場に、うふふ、と笑った。

　――こうでなくては、面白く無いわ。