そうだ模様替えをしよう　―春の青空―｜リアクション

そうだ模様替えをしよう　―春の青空―

　眠そうな黒い目をゆっくりと瞬かせ、遠野まほろはこくりと決意に頷いた。
「じゃぁ……はじめよう」
　今はもう四月を迎えようという三月の終わりかけ。
　新学期を目前にして、部屋は一年生の時のままというのは少し勿体無い気がした。掃除片付けでも良しといえば良しではあるが、それでは″区切り″としては味気ない。
　決意とはつまり思い切って模様替えをしようという本日の目標であった。
　のんびり屋な性格な為、時間はかかってしまうだろうが、心機一転、新生活をスタートさせると思えば、気持ちは奮い立ち、やる気は充分だった。
　大きめの家具類は右から左へと魔法のように移動はしてくれないので、ほんの少し正面をズラしたりなどの工夫を入れつつ、趣きを変えさせる。
　大きいものが終われば次は小さいものだ。
　まほろは椅子に座り、机に向かう。
　棚や引き出しから一年生の時に使用した教科書やノート類を引っ張り出して纏めて一箇所にしまう。つもりが、どこにしまっておこうか悩んでいる中、何気なくノートの表紙を捲ってしまい、
「あ、ここ……」と声を漏らす。自分流に板書した内容は、当時の記憶をも呼び起こされ、教室の賑わいが耳に蘇る。うららかな日、日差しのあたたかさ、開けられた窓から通る風。チョークが黒板を叩く音、先生の目を盗んではそこかしこからどんな話題で盛り上がっているのかチャイムが鳴るまで尽きない囁き声。
　捲るページはノートか、それとも記憶か。

…※…

「……１年生の時はこんなこと勉強したなー……」
　集中した時もあったし、そうでない日もあった。
　過ぎ去っていった健やかな日々の筆跡を辿り、まほろは「あ」と我に返る。
「読みふけっちゃった」
　いけないいけない。
　今はお片付けの時間だ。
　学年が上がったことで使用済みになった教科書とノートを揃えて纏め、あらかじめ用意していた場所にしまい、空いた空間に新品の教科書とノートを詰める。新学期からは彼等との新生活だ。
　のんびりまったりマイペース。ふんわりと眠りの気配漂わせて、部屋の模様替えに夢中になっていく　　　の時間は彼女に似て緩やかに優しく過ぎていく。
　椅子から立ち上がったまほろは綺麗にした部屋に最後の仕上げをする為、避難させていたぬいぐるみ達を手に取る。
「うさぎさんにネコさんに……、
　あ、これは去年のハロウィンの時に作った不気味なパンダさん……」
　大小様々、種類も豊富。ぬいぐるみマイスターのまほろの元にぬいぐるみは在ってこそ。
　ねこやうさぎのモチーフは数多けれど、ハロウィン仕様の不気味なパンダさん――こいうテイストのはまほろにとって初めての試みだったが、我ながらなかなかよくできたと思う会心の作だった。
　パンダさんを眺めて「また」とまほろは考える。
「またいろんなぬいぐるみさんを作って……それがいろんな人に気にいってもらえたなら嬉しい、な……」
　定位置を決めてないパンダさんは一度机の上に置いて、ネコさんはここ、うさぎさんはここ、大きいものはあっちとそっちに、小さいものは纏めてこっちの網籠にとまほろは部屋を飾っていく。
　新しい場所で改めて宜しくとまほろはぬいぐるみ達に声をかけながら、時計を見遣る。
「もう……そんな時間なんだ」
　言って、部屋を振り返った。
　見渡して、「うん」と、頷きをひとつ。
　心機一転。
　多少の手を加えただけだが、見違えた自室の様変わりにこれから始まる新学期へと思い馳せ、まほろは部屋を後にした。