そうだ模様替えをしよう　―春の青空―｜リアクション

そうだ模様替えをしよう　―春の青空―

　目覚めの良い日。
　予感めいた、ある春の日。
　空気を入れ替えようかな、と桜月は窓を開けた。
　室内を渡る風は微かレースのカーテンを揺らす。翻る襞は優雅と舞い、窓の外は抜けるような空の青さが広がっていた。
「いい空だな……」と、陽の光が目に入らないように気を付けながら月は見上げる。
　そして、目を細め、小さく唸った。
　こうして一々日差しを気にしないと青空を堪能できないのは、稀に見る絶景に対して没頭できず気が散った。気にしすぎと言われればそこまでだが、それでは、この開放感を満喫できない。いかせん時間帯によっては日当たりが良い窓辺ともなればその制限も厳しい。
　目の上で日陰を作って考えを巡らせる月は、「そうだ」と思いつき、窓辺を離れた。
　メモ帳にプランを列挙し、まとめると電話を手に取る。それ専門の業者の番号をプッシュし、風通りも涼しい窓辺でメモ帳片手に打ち合わせを開始する。
　流石はフットワークの軽さを売りにしているだけあって訪問から作業終了まで二時間もかからなかった。不備があれば連絡くだいと帰っていく業者を見送って月は自室へと向かう。

　ドアノブに手をかけ、部屋に入ると月は天空もかくやと言わんばかりの青さに包まれた。

　天井を始めとした、前後左右、床までとは言わないものの同系色に収めれば、そこは空そのものだった。
　そう、月は今日の青空を部屋に取り込んだのだ。
　一色を塗ったのではなく、空を写した写真を壁紙としてプリントアウトし、部屋の天井と四辺の壁を張り替えたのだ。それに加えて模様替えに雰囲気を合わせれば、そこはもはや天空である。
　今すぐにと無茶を頼んだだけあって窓を開け放って視界を奪われた空そのものが完璧に再現されている。

　うん、この青さがいい。

　ソファーに座ってぐるりと部屋を見渡す月は、感慨深げに頷いた。
　透き通るような綺麗な青、それを飾るように浮かぶ白い雲。
　窓から吹き抜ける風を頬に感じて、その青に魅せられている自分を自覚する。
　だからノートにデザインを描く、この青に、頬に感じる風に月が何を感じたのかを形にする為に。それは紛れもない表現だ。
　描きあがったら早速形にしよう。
　そしてモデルであり恋人でもある彼女に着てもらおう。
　目的がはっきりするとそれに向かって集中力が増し、没頭に意識が埋没した。
　紙面に線が走る。青を基調としたワンピースを白のレースが飾り。追加される白いスカーフとリボンにサンダル。
　合わせて、アクセサリーや下着もデザイン化しよう。
　全身コーディネイトの統一感は月が思い描くモデルの魅力を引き立たせるに充分足り得るだろうか。
　それを着た彼女が青空の下に立つ様を思い浮かべる。
　その隣に私が立てない事が残念で、部屋の青を見て慰めよう。
　想像は自由だ。
　この空の青さと同じように、際限は無く、枷も無い。
　涼しい風の柔らかさは陽光を得て、あたたかく月の頬を撫で退（すさ）る。
　静かな部屋にただ響く音。
　増えていくスケッチ。
　イマジネーションは多彩で、
　ただ心のままに、
　――描く。

…※…

　いつまでそうしていただろうか。気づけば既に日は傾き、茜が一日の終りを告げようとしている。
　冷えを感じ、窓を閉めてカーテンを引いた月は部屋の電気のスイッチを入れる。
　するとどうだろう、人工の明かりを受けて、尚、空は、在った。太陽を失い多少趣きが変われど、心を打った青さは変わらない。
　青色を背景に、彼女が、月の中で笑い動く。一回転し、スケッチに残した架空の服を、その襞をキュートに翻す。見えない風に驚き、そして遊ぶ。服の裾をつまんで月に見せ、くるくるとまた回った。

　閉じた目を開けて見違えるほどにも青くなった自分の部屋を見渡し、月はソファから立ち上がった。
　就寝時間にはまだ早い。
　スケッチを束ね、一通りの準備を終えると、月は本格的な作業に入った。

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あとがき

担当マスター：保坂紫子
ファンレターはマスターページから！

　皆様初めまして、またおひさしぶりです。保坂紫子です。
　今回のシナリオはいかがでしたでしょうか。皆様の素敵なアクションに、少しでもお返しできていれば幸いです。
　なんの参考になるのかはわかりませんが、この模様替えの時期は３月終わり辺りを設定しています。新年度は新しい部屋で！　みたいな意気込みです。

　また、推敲を重ねておりますが、誤字脱字等がございましたらどうかご容赦願います。
　では、ご縁がございましたらまた会いましょう。

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