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そうだ模様替えをしよう ―春の青空―
司書の先生から鍵を借りて図書室に入った綾辻 綾花は、早速窓を端から開けた。入り込む外気に密室故に停滞し淀む空気がゆっくりと外へと押し出されていく。
陽光にきらきらと煌めくように見える埃の量に綾花は腰に両手を当てた。汚れを吸着したり人の手が届かない場所があれば、それは埃っぽくもなるもので。自分がいる間はこうして窓を開けたりなどの工夫を凝らしたりするが、もう少し減らしたいものである。埃っぽいのは気持ち的に良くない気がする。日向の匂いがする暖かい風を取り入れて、空気の入れ替えを自然に任せた。
はたきを手に持ち、上から下に掃除を始める。途中気になった個所を手直ししながら、埃を落とし終えたら、少し時間を置いてからの掃き掃除。床拭きは、それはまた今度にしよう。
「はい。これで、お掃除はおしまいです。次は……」
掃除道具を所定の場所に戻し、綾花は一旦奥へと引っ込み、リストと自分の荷物からメモを持って戻ってくる。
図書室入口の目立つ場所、新刊コーナーの隣の棚から本を引き出し、自習机の上に積み上げた。
勝手知ったる自分の庭のように本棚から寝子島関連の書籍を抱え持ち、それも別の机に積み上げ、また、広げる。
「寝子島に初めて来る子もいますしね」
机上に広げたのは、観光のガイドブックや寝子島の伝説を特集した本、寝子島出身者の書いた小説や猫の写真集など、どんな興味を持って本を手に取ってもいいように多角から攻めたラインナップが勢揃いした寝子島関連の書籍ばかりだ。
マニアックなものも何冊か含めて、元々寝子島で育った生徒にも驚き楽しんでもらおうという魂胆も忘れない。
どんな配列がいいか何通りか組み合わせ大まかに構図が決まれば、新刊紹介の隣に作った空きスペースにそれらを配していく。見栄えが良いものを上に、マイナーな物を下に、表紙を並べ、一部を見開きにしてみたり、背表紙のタイトルで遊んでみたり、うんうんと悩まし気に綾花はじっくりと時間をかける。
地図のページを開いて倒れないように設置し、
「あとはこれだけですかね？」
大判フルカラーの写真集を手繰り寄せて、どどーんと目立つところにばばーんと置いた。
「やはり寝子島はこれですよね」
図書室に入って一番最初に視界に入る本。
厳選に厳選を重ねた綾花イチオシの『寝子島の猫の写真集』は表紙を飾る猫からしてふわっふわの毛並みも柔らかそうで思わず手に取ってみたい衝動に駆られる。
あとは書籍の追加は必要だろうかとリストを眺めた綾花はこちらは充分かと区切りをつけた。でないと際限が無くなる。
本と一緒に奥の部屋から取ってきた桜色の画用紙に、
「寝子島へようこそ！」
と歓迎の気持ちを大きく書いて棚上の方に透明色の粘着テープで止めた。
″新入生の為の新コーナー″はこれで九割が完成した。残り一割は、寝子島といえば猫、猫と言えば寝子島と故郷の代名詞足り得る猫をプッシュする猫グッズ――猫モチーフの小物類で書棚の隙間を埋めていく。
春らしい色合いを重視し個人的に集めたものも混ぜつつ、自分で撮った寝子島の風景写真も上品なフォトフレームに収め掛けた。
これだけ手を込んだおすすめコーナーも珍しい。それだけ、綾花の気持ちが在ったとも言える。
寝子島に初めて来た子が早く馴染めるように。
そして、寝子島に住んでいる子も新たな発見があればいいなと。
戸惑いも多々あるだろう新入生の誰かの何かのきっかけになれれば、と。
春風のあたたかさに似た想いが注がれている。
「うん。良し、ですね」
現在できることは全てした。仕上げは春休み明けにでも、先生に打診し相談後にしようと綾花はひとり頷く。
眺めるリストには気になるタイトルが多く、選んだ本以外にもオススメ可能と冊数が増えるかもしれない。
ひとりで作業したとはいえ、視線の誘導から細部まで理想的な形になってくれて有り難く、綾花は満足感に、知らず微笑んでいた。
新学期が始まって、どんな新入生が来るのだろう。
想像するだけでも楽しみで、先輩として色々教えてあげられたら素敵だろうと、綾花は嬉しそうに近い未来に思い馳せる。
窓を閉めて鍵をかけて綾花は図書室を後にする。
次に来るのは始業式だ。
シナリオ
シナリオデータ
シナリオスケジュール
- シナリオガイド公開日
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- 2017年05月30日
- 参加申し込みの期限
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- 2017年06月06日 11時00分
- アクション投稿の期限
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- 2017年06月06日 11時00分
