桜花寮フルーツバスケット！｜リアクション

桜花寮フルーツバスケット！

○２人部屋引っ越し準備

「お引越し♪　わくわくするけど、片付けは大変だな～」
　響タルトは、ポニーテールを揺らしながら引っ越し準備に追われていた。
　隣では、ツインテールのスピカ・フォーツも引っ越し準備の片づけをしている。
　スピカは天文を生業とする家系の一人娘だ。
　天文関連の本が蔵書にしてダンボール２箱分程度あり、重くてかなり手間取っている。
　それから望遠鏡に鉱物アクセサリにノートパソコンにエトセトラエトセトラ……
　しかしタルトの荷物に比べればまだましだ。
　タルトの趣味は、いわゆる薄い本こと同人誌を描いたり読んだりすること。
　原稿に同人誌や資料や画材や……荷物はかなりの量に及ぶ。
「もう、一年、たつんだね……」
　スピカがつぶやいた。
　この部屋に引っ越して、二人が初めて顔を合わせてからあっと言う間だった気がする。
「ネコミケの前はいつも遅くまで原稿書いてたし、オンラインゲームもやってたし。スピカちゃんには１年間迷惑かけちゃったねー。今までありがとう♪」
　明るくタルトが言う。
「迷惑とは、思わない……。むしろ、楽しかった……。触れてる世界の、一歩向こう側って気がしたし……。あ、こっち終わったから、手伝うよ……」
　自分の分は終わったが、まだ終わりそうにないタルトの片づけを見かねてスピカが声をかける。
　スピカのぼそぼそとした話し方は冷たく聞こえることもあるが、彼女がおおらかで人懐っこく、甘えん坊な一面もあることをタルトは知っている。
「ありがとう。いろんなことがあったね。桜花寮でパジャマパーティーもやったし。薄い本の原稿を見てもらって感想を聞いたりもしたね」
「そんなこともあったなぁ……いつぞやのボウリング大会の結果罰ゲームで泣きを見たこともあったっけ」
　スピカもまた、人懐っこくいつもふざけているようなタルトの、周りから変な目で見られようとも趣味のために頑張る意志の強さを知っている。
「ロシアの美少年兄弟がいるお店でバイトしようとして断られた時も、スピカちゃんは慰めてくれたね」
「結局友達になれたんだよね？　……外国へ行っちゃったのは残念だけど」
「うん……」
　そんな思い出を語りながら、しみじみとスピカが言う。
「一年間、色々あったけど……離れるのは、やっぱり惜しい……」
　しんみりした雰囲気を吹き飛ばすように、タルトが明るく言った。
「そうだ、記念に一緒に写真撮ろうよ♪」
「えっ？　ここで？」
　ちょっと驚いたスピカに、タルトは畳みかける。
「いい？」
「もちろん……。ちゃんと、残しておきたい……」
　ルームメイトでなくなっても会えなくなるわけじゃないけれど。
　この部屋で２人で写真を撮る機会はもうないだろう。
　なら、記念写真は二人が暮らしたこの部屋で、今撮るのが相応しい。
　スピカも、タルトも、口には出さなかったけれど同じことを考えた。
「準備はいい？」
　スマホのカメラを設定しながらタルトが言う。
「うん……いつでもいいよ」
「それじゃいくよ……３、２、１、チーズ♪」
　二人の笑顔が、自撮りのスマホフレームに収まった。