桜花寮フルーツバスケット！｜リアクション

桜花寮フルーツバスケット！

○私の中の、貴方

「一人部屋が希望なのね。でも大丈夫なの？」
　葉利沢倫理子は、寮母の座間トシコに呼び止められていた。
「はい、身体が弱くて相部屋の子に気を遣わせてしまっていたので、これを機に人に迷惑をかけないようにしたいんです。以前に比べて身体の調子は良くなったので……」
　表向きの理由を述べる倫理子に向けるトシコの眼差しには、母親のような心配の色があった。
　心配するのも無理はない。
　寮母であるトシコは、倫理子の抱えた事情を知っている。
「そんな、迷惑なんてことはないわ。今度は別な人と相部屋になるのだし……気にしなくていいのよ」
　だが優しく諭されても、倫理子は意見を曲げなかった。
「人に頼らずに済むように、強くなりたいんです。大丈夫です。無理せずに、何かあったらすぐ助けを求めますから」
　普段は気が弱く人見知りなだ倫理子だが、静謐さと壊れやすそうな印象をともなう美しい顔には今、強い決意があった。
「そう……本当に無理しないでね」
　トシコも最終的には一人部屋を認めることとなった。

　部屋割り発表後、倫理子の行動は早かった。
　相部屋の子には挨拶もそこそこに、まとめておいた自分の荷物を新しい部屋へ移動させる。
　だが荷物を移し終えてドアを閉めた後、片づけるのは後回しにして、ベッドに仰向けに倒れ込む。
　一人部屋。自分以外誰もいないはずの部屋で、倫理子は問いかけた。
「――私の中にいる……あなたは誰？」
　一人部屋を希望した本当の理由。
　三学期の始業式の夜から明らかに、自分の中に潜む誰かを感じていた。
　最初は夢かと思ったけれど、引き裂かれた衣服はそう思い続けることを許してはくれなかった。
　
　倫理子は自分の手を見つめる。その美しい爪を。
「このまま、肉に爪を立てたら引き摺り出せる？　あなたは……なんて名前なの？」
　そのとき、一瞬だけ倫理子は意識を失った。
　期待していなかった返事があった。
「……私はMalice。私でもありあなたでもある存在よ」
　自分が発したとは思えないような冷酷な響き。
　けれど確かにそれが自分の声であることを、倫理子は認めないわけにはいかなかった。
（出会ってしまった、のね……）
　妄想であったなら……と思っていたけれど。
　この新しい自分と、私はこれからどう付き合っていけばいいのだろうか？

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