PEEPING　GHOST！！｜リアクション

PEEPING　GHOST！！

●屋敷野梢の場合

■俺の話
「極レアゲットォオ！！」
　今日も俺はネトゲの世界に入り浸る。
　例え現実ではモブ以下な俺も、この世界では仲間がいる。
「このアイテム、こずこずさんが装備したら効果絶大なんだよなぁ」
　次会ったら渡そ！　と、ご機嫌で俺は自室を出た。
　そして。俺はそのまま階段で足を滑らせ、この世から去った。

　気づくと、遠く離れた地に居た。
　見知らぬ街、見知らぬ商店街。
　辺りを見ると、商店街を歩く一人の少女に目を引かれた。揺れる三つ編みが愛らしい。
（可愛い……）
　すると、彼女のオリーブ色の瞳が俺を凝視した。
　身体を強張らせるも、彼女は何もなかったかのように顔を背けた。
（俺の事は見えるはずはないんだ）

●梢の話
（……なーんか、さっきから見られてる気がするんですねー）
　祖父と兄とで暮らすいつもの自宅、いつもの台所。
　肉屋で買ったひき肉をこねつつ、屋敷野梢は首を傾げた。
　商店街での買い出しあたりから、何か気配を感じていた。それは今も続いている。
（いろんな事件に顔を突っ込んだりしてますし、思い当たる節は数えきれない程ありますけど……）
　梢はこの一年間で起こった様々な事件、また日常を回想した。
「まさか、私のファンとか！？」
　声を大きく出してみる。
（いや、ないなー）
　即座に心の中でツッコミを入れる梢だった。
　
■俺の話
（いやむしろファンになったよ！）
　彼女の料理姿を堪能していた俺はつい声を上げた。
　手際良く料理作る姿はとても美しい。
（死んでから人生初の一目惚れなんてなぁ）
　苦笑しつつ彼女を見る姿は幸せだった。
　やがて彼女の家族も帰宅し、夕飯が始まる頃には俺は彼女からそっと離れた。
　
　２階建ての日本家屋は探索のし甲斐がある。
　様々な部屋を回り、ドアを抜けると、そこは浴場。
　ここは長居できない、と後戻りすると……丁度彼女が現れた。
（こ、この展開は……！？）
　三つ編みのゴムを解く。そしてブラウスに手をかけ、ボタンを外していく。
　華奢な身体、きめ細かい肌が徐々に露わになり。
　ついに最後の一枚が身体を離れ……
（神様ごめんなさい、ありがとう）
　俺は何度も何度も呟いた。

●梢の話
　相変わらず何かの気配を感じる。入浴している時は悪寒がする程だった。
（……生きてる動物、って感覚ではないんですよね、これ）
　疑心暗鬼になってるだけかなー、と辺りを見回せば、時計の針が目に入り。
「戦いの時……ネトゲの時間です！」

■俺の話　
　彼女と共に部屋へと足を踏み入れた。
　……意外と、片付けは苦手らしい。ちょっと意外。
　だが次の瞬間、俺は目を見張った。
「こずこずさん！？」
　彼女が立ち上げたＰＣには、俺が愛した世界。
『こんにちはー』
　見慣れたアバター。
『今日こそ、倒しますよー』
　レイド戦に現れた敵は、いつも俺達に苦戦を強いた。
　それは今日も同じだった。
（あぁ、俺がゲットしたアイテムがあれば……）
　その時、彼女の画面に【アイテム譲渡の申請】とメッセージが現れた。
　彼女がキョトンとした表情を浮かべるも、直ぐに【承諾】と返事をし、装備変更した。
　そう、俺が渡したかった極レアの武器だ。

●梢の話
「ふー。やっと勝てましたー」
　突然の贈り物以上に、梢は驚いたことがあった。
　最近ログインの形跡が観られないネトゲ仲間からのアイテム譲渡ではあったが、肝心の彼がログインした形跡がない。
（もう引退しちゃったのかなー）
　一日中インしていてダメ人間オーラを発していたが、どこか憎めない人だった。
「……リアルが忙しいのかなー。またいつか、遊べたらいいな」

■俺の話
「また、こずこずを助けにくるよ」
　天国でもネトゲできるかな、と思いつつ。
　俺の身体は、光に溶けていった。

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