PEEPING　GHOST！！｜リアクション

PEEPING　GHOST！！

●八神修の場合

■猫の話
　茶虎柄のメスの猫は、一人の人間に恋していた。

　星ヶ丘にある一戸建ての家。
　そこに憧れの人は住んでいた。彼の学校帰りに後を付けてわかったことだ。

　柵の向こうには、何匹もの猫を始め、動物たち。
　庭には登りやすそうな樹、涼しそうな池に加え、猫用の遊具もある。
　動物達が気ままに遊び、くつろいでいた。
「みんな、ご飯だよ」
　彼が現れると、皆が一斉に彼の元に集う。
　美味しそうなご飯、皆の幸せな表情。
　キュルル、と音が鳴り、茶虎は空腹を再認識した。

　茶虎は一人ぼっちだった。
　野良であることに誇りを持ってるが故、憧れの人に近づけない。
　
　茶虎は、何か食べたかった。
　たまたま見つけた百合の花。
　彼女はそれを食べ、そして息絶えた。

●修の話
（どうしたんだろう）
　愛猫達に餌を与えていると、八神修は違和感を感じた。
（……不自然に空間が空いている？）
　エサ皿に集う猫達の間に、隙間がある。
（丁度、猫一匹分位か）
　猫達もその空間に視線をやってはニャアンと声を上げていた。
　修は猫達に近づき、腰を下ろす。
「お前達、何と話しているんだ？」
　空間に気配を感じた修はそっと手を伸ばした。確かに、そこに柔らかな毛並みと温もりがある。
　瞬きした瞬間、修は茶虎柄の猫の姿を確認した。

　修が部屋に戻り、その茶虎の猫を抱き抱える。
「そうか、メスなんだな」
　そして茶虎を己の膝に置いた。
　手触りや温もりは、身体が半透明でない限り生きた猫と変わらないだろう。
　修が丁寧にブラッシングすれば、その心地良さに目を閉じる茶虎。
　ゴロゴロ、と野良だった時には発さなかった音が鳴る。
「喜んでくれてるのなら、嬉しい」
　修の整った表情から美しい笑みが零れた。

■猫の話
　甘えていいんだ、と茶虎は思った。他の猫達のように。
　勉強机に向かう修の足元に一匹の猫がすり寄れば、同じように茶虎もすり寄り。
　他の猫が修の頬を柔らかに舐めれば、茶虎も同じく首筋を一舐めする。
「ん…っ。甘え方を学んでるのか？」
　数秒、修が何かを考えた後。
「よし、今日からお前の名前はピュアだ」

　自分の名を持ったピュアは修との時間を楽しんだ。
「おい、ピュア。俺の寝間着を奪うなって」
　修の寝間着を独占する茶虎。
　露わになった修の上半身は程よく引き締まり、しなやかな筋肉は猫でも見惚れる程で。
　ピュアが服を開放したら、次は机の上の写真だ。
　修が勉強する間、彼が何度か見ていた人間の少女の写真。
　特別な思いがあるのは猫でもわかる。
「にゃっ」
　ジェラシーの猫パンチ！
「おいおい、それは俺の大切な人の写真なんだ」
　修が倒れた写真立てをそっと直すと、ピュアは不服そうな表情を見せ。
「にゃー」
「ピュア、この子は猫好きな優しい子なんだよ。きっとピュアとも仲良くなれる」
「にゃー」
「だからそんなことしちゃダメだぞ」
　そう言うと、修はベッドへと潜り込んだ。
「おいで、ピュア」
　にゃぁん、と甘えた声を出し。ピュアは修の腕に抱かれ眠りにつくのだった。

　明け方、ピュアは目を覚ました。
　こんな穏やかに朝を迎えたことは今まであっただろうか。

　茶虎の満たされた気持ちに共鳴するかのように、修の愛猫達が集まってきた。
　猫たちの気配に、修も目を開く。

　目の前には、光に包まれるピュアの姿。その姿に修は全てを察した。
「向こうには俺の生みの母がいるんだ。可愛がってくれるよ」
　……きっと、天国でも飼い主は見つかるだろう、とピュアは思った。
「変な言い方だが……元気でな」
　ニャア、と一鳴きするとピュアは光に溶けていった。
　その姿を、修たちはずっとずっと眺めていた。

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