PEEPING　GHOST！！｜リアクション

PEEPING　GHOST！！

●青山絢の場合

　穏やかな春の一日、午前８時。
　青山絢はベッドの中でそっと瞳を開いた。

　春休みであるから、急いで支度せずとも良い。
　絢は暫く春のまどろみをベッドの上で感じていた。
　カーテンからは微かに日差しが差し込んで。
　暖かい日差しに誘われるように、絢は身を起こし背伸びした。
（起きよう……）
　のろのろと立ち上がり、絢はバスルームへと向かった。
　それと同時に。一つの気配が絢の後を追ったことに、彼女は気付かなかった。

■僕の話
　僕は、絢先輩の中学時代の後輩だ。とはいえ、面識はない。
　たまたま見かけた絢先輩の写真撮影する姿に一目惚れした。
　だけれど、恥ずかしがり屋の僕は絢先輩に声をかけることは一度もできなかった。
　その内、僕は重大な病気が己を蝕んでいることを知り、病院へと入った。
　
　病院で一生を終えた僕は、絢先輩を探した。
　出会えた先輩は、僕が見ていた限りカメラに手を触れることはなかった。
　演技する絢先輩も魅力的だったけれど、僕は少し寂しかった。

●絢の話
　絢は脱衣所で服を脱ぐ。
　色白で、きめ細やかな肌を持つスレンダーな絢の肢体が露わになる。
　まだ寝起きの気だるさを残した表情もあってか、少女とは思えない妖艶さも感じられる程だ。

　バスルームに入り、シャワーの栓を捻った。
　己の身体に頭から勢いよく冷水を浴びせる。
　黒い髪、細く白い肩、胸、腰、長い脚、と冷たい水が絢の全身をなぞっていく。

　春とは言え、まだ朝晩は寒さも残る。
　だが、この冷水は絢の意識をハッキリさせるには必要で。
　浸透する冷水が心地良い。
　が。
（何か、いつもと違う感覚がする）
　絢はシャワーの温度を徐々に上げながら思う。
　けれども、その違和感の正体には気付かない。
　水は既に湯となっている。その湯と同じような熱い眼差しを感じるが、辺りを見回しても何の気配もなく。
（……気のせいよね）
　シャワーの栓を閉じ、絢は違和感を無意識にシャットアウトした。

■僕の話
　流石に、僕には刺激が強かった……。
　見てはいけない、と思いながらも……結局覗いてしまった。
　絢先輩、ごめんなさい……！
　憧れの人の全身は、目眩がする程美しく。芸術品のようだった。

●絢の話
　ドライヤーで丁寧に髪を乾かし、身支度を整え。
　同居する従姉は既に彼女の働く高級ホテルに出勤しているため、家には絢一人。
　簡単に朝食を取ると、絢は外へと出かけた。その手には、デジタルカメラ。

　街を歩けば、心地良い風が吹く。
　上を向けば桜並木の美しさ、下を見れば可愛らしいチューリップ。
　絢は思うがままに、心に留まったものをファインダーに収めていった。
（写真は、もう辞めたはずなのに……）
　風が、彼女の髪を柔らかく撫でた。

■僕の話
　絢先輩は生き生きとしていた。
　僕が大好きだった絢先輩が、そこにいる。

　僕は、思い出した。
　なぜ今まで忘れていたのだろう。
　僕は一度、絢先輩と関わりを持った。
　入学式の時、先輩が写真を撮っている場所に偶然映りこんでしまったんだ。
「あっ、すみません」
　即座に写真のプレビューを見せてくれた絢先輩。
「大丈夫よ、これも良い写真」
　そっと、絢先輩は微笑んだ。
　あの時も、桜の木の下だった。　

　絢先輩のファインダーが桜を捕えていた。
　中学の入学式の光景を思い出しながら、僕は光へと溶けた。

●絢の話
　帰宅すると、絢はデジカメの画像をチェックした。
「あら……？」
　そこには、慌ててフレーム外に逃げようとする少年の姿があった。
「こんな写真、今日撮ったかしら？」
　だけれど。
「こういう写真、昔も撮った気がするわ」

　懐かしさに絢は、そっと笑むのだった。

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