PEEPING　GHOST！！｜リアクション

PEEPING　GHOST！！

●浅葱あやめの場合

■男の話
（なんやあのねーちゃん、陰がある感じがたまらんわぁ）
　男が慣れぬ街を歩いていると、１人の人物に目を奪われた。
　肩までの灰色の髪を持つその人は、憂いを感じさせる表情で春の街を歩いていた。
（えぇ女がおったら口説くのが俺！）
　急いでその人物のあとを追う、が一瞬身体が重くなった。
（な、なんや……早くあのねーちゃんを追わな……）
　それも束の間。己の身が驚く程軽くなったことに男は気付く。
（お、これなら追いつける！）
　けれど、男は気付かなかった。
　心不全により倒れた自分は命を落としたことを。

　追いかけ続けた人物――浅葱あやめは眼鏡店に入っていった。
　男も続けてお店へと入る。
「まいど！」
　声をかけるが、あやめは挨拶どころか目も合わせない。
「なんやねーちゃん、ナンパ目的やからってそんな無愛想にせんでもえぇやろ？　綺麗な顔が台無しやで？」
　男があやめに近寄って声をかけても……無反応。
　だが、男は気付いた。
　眼鏡の試着用に置かれた鏡。そこにあやめの姿はあっても、自分の姿は映らない。
（これは！？）
　男は思った。
（幽体離脱か！？　このねーちゃんのいろぉんな所を見られる、という神様の贈り物か！？）
　ポジティブすぎる模様。

（あー、見れば見る程むっちゃ可愛いわぁ。中性的な所もえぇわぁ）　
　胸は控えめ、だがそれも無問題。
　あやめが眼鏡の調整に勤しむ姿を見れば
（ああー、ペロペロしたい）
　ちょっと上の棚から商品を取ろうと背伸びすれば
（あああ、その腰に後ろから抱き付きたい）
　接客中、オドオドとした表情を見せれば
（あぁ、ベッドであれやこれを……！）
　ド助平である。

　あやめが席を立った。そして向かう所に男もついて行く。
（神様、おおきに！）
　男がワクテカと共にその個室に入る。そう……ウォータークローゼット。
　数秒後、誰にも届かない悲鳴が響いた。
（あんた、男やったんかぁぁぁあああああ！！）
　男は驚いた。間違いなく女性だと思っていた。
　しかし。
（もう、男でもえぇわ！）
　新たな性癖に、死後に目覚める男であった。

　こうなったら欲望は止まらない。
　眼鏡店で接客するあやめを見ては
（このままこの子の服を脱がしてしまいたい、どんな顔するんやろ……）
　あやめがお風呂に入れば
（あぁぁ、あやめたんの全裸！　ひゃふー！）
　寝顔を見ては
（あぁああぁ、なんか色々押し付けたい……！）
　ド助平である。

　翌朝。
（充実した一日やったわぁあ）
　一晩中あやめウォッチングに勤しんでいた男。
　あやめが若干悪夢にうなされていた感があったが、その苦悶の表情と吐息すら男にとってはご馳走だ。

　さて、どれ位で元の身体に戻れるんやろ？　と男が思ったその時、浅葱眼鏡店に配達された新聞の見出しが目に入った。
『有名関西芸人、心不全で死去』
　そして書かれていたのは男の名前。
「わし、もう死んどるやないかーーい！」
　驚愕の事実を知った彼は、驚きのあまりそのまま光へと溶けていった。

●あやめの話
　なんだか、やっと変な視線が終わった気がする。そうあやめは思った。
（僕の守護霊さん、眼鏡でもかけてイメチェンしたのかな……）
　きっと似合ってなくて、元に戻したのかな、なんて思うあやめであった。