PEEPING　GHOST！！｜リアクション

PEEPING　GHOST！！

●新田亮の場合

「見つけました……私のご主人様……！」
　サングラスに日が当たり、キラリと閃光が走った。
　その光が睡眠中の新田亮の顔にかかる。
「ん……朝、か……？」
　亮がうっすらと目を開けると。目の前でヒラヒラとレースが揺れた。
　柔らかな緑色のスカートに、亮は寝ぼけた頭で「可愛い女の子が俺を起こしに……！？」と期待を込めしっかりと目を見開くと。
「おはようございます、ご主人様ぁああ！」
　低音ヴォイスが腹に響く。
　メイド服に身を包んだムッキムキの筋肉ダルマがフロントダブルバイセプスのポーズを決めてそこに居た。
　見覚えがある。とてもとても見覚えがある。
「な……ななな何でココに！　どうやって入った！」
「いやですね、亮様。初めまして、です」
「は？」
　言われてみれば、過去に接客してくれたメイドと少し雰囲気が違う気がする。口の周りに髭もある。
「あの、私、某メイドの弟です。兄を慕ってくれた恩返しに来ました」
　そう言うとメイド（弟）はサイドチェストしながら微笑んだ。
「別に慕った覚えは……」
　ない！　と断言したいところだが、スキンヘッドマンがにじり寄ってくる勢いに勝てない。
「私、もう既にこの世にいないんです。兄が生霊になって亮様の元に訪れそうな勢いだったんで、代わりに、と」
　言われてみれば、冥土（弟）の足は半透明に見える。
　すぐ成仏すると思うんでー、という言葉に
「わ、わかりました。成仏できるまでなら、相手します、はい」
　亮は肩を落としながら、日課のランニングを行うため着替えを始めた。

「ご主人様ぁあぁぁ！！　マムシドリンクいかがっスかぁああ！！」
　まだ人気のない道を黙々と走り込む亮。
　その後ろをマッチョメイドが追いかけてくる。
「いらないよ！」
　逃げるようにスピードを上げる亮。
　すれ違う他のランナーは平然としてるため、他の者から姿は見えないのだろう。
（こんなのを連れてると思われなくて良かった……）

　ランニングを終え、サッパリとシャワーで汗を流す。
「ご主人様あぁあぁん！！　お背中流しますうぅぅう！」
　振り向けばモストマスキュラーのポージングでヒゲメイドが佇んでいた。
「結構です」
「あ、やっぱ鍛えてるだけあって凄いスね、ご主人様」
　ポッと頬を染めるそのメイドの姿はとてもとても気持ち悪い。
「ちょっ、なんで鍛えられないところまでご立派なんですか、もー！」
　乙女の如く身をくねらせ、亮の急所をガン見する。
（最悪だ……）
　亮は天を仰いだ。

「ご主人様ぁぁああああ！！　はい、あ～～～ん♪」
　相変わらず側にいるマッチョメイド。
　鳥のササミに豆腐サラダ、プロテインドリンク、目玉焼き（卵１パック分）。
　確かにタンパク質豊富だがやりすぎだ。
　可愛らしくサイドチェストポーズを決め、微笑んでいる。
　亮は顔面蒼白になりながら口を動かすことで精一杯だ。
「……いつまでいるつもりですか？」
「何か思い出を残せたら未練なく成仏できると思います、ご主人様」
　そう言うと、メイドはそっと瞳を閉じ、唇を亮に向かって尖らせた。
「無理無理無理無理」
　
　朝食を食べ終え、机に向かい。
　春休みの間、一年生で学んだことの復習をこなしていた。
「ご主人様は真面目ですね」
「そんなことないですよ。メイドさんは得意なことあるんですか？」
「保健体……」
「以外で」
「あ、歌が好きでしたね」
　ちょっと聞いてみたい、と言ったのが運のツキだった。
「♪ボ～～～エ～～～～」
　超音波としか思えないその攻撃を、亮はモロにくらった。

　気づけば、夕方である。
　周りを見るとメイドの気配はない。安堵の息を思いっきり吐いた。
　代わりに一枚の写真が置かれていることに気づく。
　あの日、冥土親父と肩を組み撮ったツーショット写真……の隣に、ヒゲの生えたメイドが増えていた。

「今度お祓いに持っていこう……」