訳アリ物件、求婚幽霊つき｜リアクション

訳アリ物件、求婚幽霊つき

　女幽霊の婚活がすすむなか、新田亮は人知れず震えていた。
　自室の扉を開けたとたん、見知らぬ部屋にたどり着いている――。亮は以前にも同じようなパターンを経験していたのだが、生粋の幽霊嫌いである彼にとってみれば、数をこなせば慣れるといった問題ではないのだろう。
　幽霊と結婚するなどと、亮にとってはフグの踊り食いに等しい暴挙である。
「……俺は用事があるから。皆でがんばってくれ」
　さりげなく部屋から出ようとする亮だったが、玄関のドアは開かない。
（きっと建付けが悪いだけさ……。開く開く。大丈夫大丈夫）
　おまじないのように、「大丈夫」と心のなかで何度も唱えながら、扉を開けようとする亮であったが、残念ながらドアノブは回らずガタガタと鳴るばかりだった。
（オーマイゴッド）
　とりあえず亮は恐怖を悟られまいと、気丈に振る舞うことにした。

「結婚してー！」
　もう何度目になるだろうか。女幽霊が、亮に向かって求婚を試みた。
　亮は内心おっかなびっくりになりながらも、あくまでも平常心を装って言う。
「――恋人探しは良いと思います。でも、生身の人間は老化するし、触れ合うこともできない。それなら幽霊の恋人を探してみてはいかがでしょう」
「幽霊の……恋人？」
「そうです。この部屋を出れば、素敵な出会いが待っているかもしれませんよ」
　その場しのぎの発言だったものの、これはなかなか筋が通っていた。
　女幽霊も納得し、いったんは部屋から出ていこうとしたが――。
「……ダメだわ」
　あまりにも想いが強いせいで、部屋から出ることはできないようだ。自分が死んでいる事実を認めたくない、というのもあるのだろう。
　女幽霊はもういちど、亮に求婚する。
「やっぱり生きている人間がいいわ！　わたしと結婚してちょうだい！」
「わかりました。――つきあってあげてもいいですよ」
　いったいなにを思ったのか。亮は、求婚を受け入れたではないか。
　すると亮はつづけざま、髪をかきあげながら、プレイボーイっぽくこう言い放ったのである。
「――十三番目の彼女で良いなら、ね」
　もちろん真面目な亮が、女性を股にかけるようなマネをするはずがない。これは幽霊に嫌わるための演技だったのだ。
　しかし、すっかり真に受けた女幽霊は、泣きじゃくってしまった。
「ひどいわ……！　あなたなんて鬼よ！　悪魔よ！　この世の生き物とは思えないわ！」
（……幽霊に言われたくないなあ）
　そう思いながらも、下手なことをいうと仕返しが怖いので、黙っている亮であった。

　てんやわんやな部屋の様子を、骨削瓢はケラケラと笑いながら眺めていた。
――誰が言ったか、『愉快な所に骨削あり』。
　生身の男を相手に、女の幽霊が求婚するというカオスっぷりを、瓢はすっかり愉しんでいる。
　もっとも、女幽霊が傍観者で終わらせてくれるはずもなく、瓢を見るやいなや、求婚をしかけてきた。
「わたしと結婚してー！」
　瓢は、うかべた薄笑いを崩さずに言う。
「こんな子供に手を出したとあっちゃあ、世間様から後ろ指さされちまうよ」
「このさい誰でもいい！　誰でもいいのよぉ！」
「そうやって、ヤケを起こして手当たり次第なんてするから、誰も寄ってこないのさ」
　瓢の言うことは紛うことなき正論だった。
　女幽霊は、ぐうの音も出ない。
「前回の失敗があるからこそ、妥協せずに理想は高くねぇ。応援してるよ～」
　とんだトラブルメーカーかと思いきや、意外にも、女幽霊を励ましているではないか。
　まっとうな意見で説得しつつ、のらりくらりと難を逃れる瓢であった。

　そこへ登場したのが、滝原レオンである。