今、一番やりたいこと。｜リアクション

今、一番やりたいこと。

７　

　時間を昼に戻し――
　ペットショップの猫コーナーで、皆はそれぞれにガラスケースに入った猫を見回った。子猫は小さくて愛くるしくて、抱いたらつぶれそうだった。
「わぁ……かわいい……。触りたい……」
　夏朝はそのかわいさに感動しながらも、ガラスが邪魔をして触れないことが残念で仕方がないようだった。ガラスに貼ってあるメモを見て、絢が言う。
「店員さんに言えば抱かせてもらえるみたいよ」
「う、ううんっ、とんでもないっ！」
　メモには『購入を検討している方』と書いてある。これ以上秘密を増やすわけにはいかない。
「見るだけでも癒されるなぁ」
　修も子猫を見て、表情を緩めている。今回の件については考えるところもある修だったが、猫を前にすると難しいことはつい忘れてしまう。
「性格も特徴も猫の種類で違う。気に入った子は居ましたか？」
「当たり前だけど、かわいくない子がいないな。みんな持って帰りたいくらいだよ」
　檎郎の顔はいまだかつてないくらいメロメロになっている。彼の言葉を聞いて、修は捨て猫だった子猫３匹と茶トラの若猫の写真を出した。４匹が寄り添って一緒に寝ている。
「多頭飼いも楽しいですよ」
「おっ！　かわいい！　どの子も健康そうだな」
「この３匹は捨てられていて、最初は随分衰弱していたんですよ」
　修は当時のことを檎郎に話す。滅多に笑顔を消さない彼が表情を曇らせた。
「そうか……。猫が愛されてるこの島でもそんなことがあるんだな……。まだ里親は見つかってないのか？　それなら、１匹俺が……」
「もう４匹とも見つかりましたよ。幸せに暮らしてます」
「そっか。良かった……」
　檎郎はほっとしたようだった。そこで残念がらなかったのを見て、彼は本当に猫が好きなのだと修は悟った。
「多頭飼いだと、餌をあげる時に一斉に食べる様子とかがすごくかわいいんですよ」
「多頭飼いかー。憧れるけど、まずは１匹から初めてみるよ」
「……それがいいかもしれないですね」
　修が写真をしまうと、そこで店員が近づいてきた。
「よろしかったら、抱っこしてみますか？」
「はい！　ぜひ！」
　檎郎はガラスケースを真剣な目で見つめ始める。その様子が微笑ましくて、修は言う。
「目が合うとヤバイですよね」
「うん、ヤバイ。よし、この子にしよう！」
　茶色の長毛種の猫を選んで、抱かせてもらう。だが、猫は檎郎の腕の中でむずかると、逃げてしまった。
「ああ！」
「あまり好かれていないみたいですね～」
　眺めていた風羽が苦笑する。結局、ペットショップでは檎郎と相性の良い猫は見つからなかった。

　次に、野良を謳歌しているから飼えないが猫に触れ合えるという修の勧めで、一行は神社に向かった。神社には野良猫がいっぱいいて、ちっ、ちっ、と指でおいでと合図しながら檎郎は猫とのコミュニケーションを図ってみる。その彼の隣にしゃがみ、時子が話しかけてきた。
「今度は保健所に見に行ってみるのはどうですか……？　さっきみたいに、目が合って一目ぼれすることもありますし」
「保健所か……うん、行ってみよう」
「飼う猫さんが見つかると良いですね」

このページにイラストを設定する