眠れぬ夜はどう過ごす？｜リアクション

眠れぬ夜はどう過ごす？

龍目豪はいつものように寝る支度を整え、横になった。
しかし、今日はどうにも眠れない。

「昼間ついうとうとしちまったせいか……眠れねえな」

布団にくるまりながら考えること数分間。１つの答えに辿り着く。

「そうだ。春休みだし、思い切って夜の冒険に出かけてみるか」

そう思い立つとさっそく布団から出る。
ルームメイトを起こさないように、静かに着替え始める。

着替えながら豪は考えていた。
もう夜も遅い。町中に出かけるのは高校生としてまずいだろう。

「探検部としては、静かな夜の探検といくか。九夜山へ散歩に出かけてみよう」

着替えを終え、バッグに懐中電灯など必要そうなものを詰めていく。
それらの確認を済ませると、豪は星ヶ丘寮を出た。

外は静かな世界だった。
昼間の喧騒は無く、それぞれの建物から漏れる光の数々と、立ち並ぶ街灯が周囲を照らしていた。

「夜だとこんな感じなのか」

見慣れた景色が違う顔を見せるのはなかなか面白い。
まだまだ冒険は始まったばかり。それらの風景を横目に九夜山を目指す。

九夜山は寝子島の中心であり、島民にとっても馴染みの深い山。
ロープウェイで山頂付近へ登れば、島が一望できる展望台や三夜湖がある。

ただこの時間ではロープウェイは動いていないだろう。
それに、せっかく探検のために部屋から出てきたのだ。
豪はそう思い、自分の足で力強く山への第一歩を踏み出した。

月明かりと懐中電灯を頼りに慎重に進んでいく。
探検部の活動で九夜山のトレッキングはあるが、そこで見られる景色と今見ている景色は別物だった。
そのまま進み天宵川の上流付近に到着した。
豪は周りを観察して、ある場所に腰を下ろした。
そこが最も桜を満喫できそうだと感じたから。

桜は静かに風に揺られている。
それを照らすのは豪の懐中電灯と月明かりだけ。
豪は懐中電灯を切ると、桜を見上げた。

「ライトアップはなくても、月明かりで夜桜を見るのも悪くねえ」

月の光に透けて見える春の色は、とても美しかった。
豪はこの景色をきっと忘れることはないだろう。