乙女のプロパガンダ｜リアクション

乙女のプロパガンダ

【果敢な兵と夢の痕】

　八神修がその日2年生の教室があるフロアへと足を踏み入れたのは職員室に赴いた際に先生からとある生徒にプリントを渡して欲しいと頼まれたからであった。

「浮月先輩、か。どこかで噂を聞いたことがあるような気もするんだが……」

　はっきりと思いだせないまま、先生に訊いた特徴を持つ2年生、浮月綾世を廊下で見つけた。
　しかし廊下に何やら雰囲気が穏やかではない空気が漂っていることを修は肌で感じる。
　浮月はなにやら誰かと話をしているようだったが……。

（あれは確か球技大会のサッカーに出ていた……）

　八神は浮月と話をしている生徒達に見覚えがあった。
　先日の球技大会のサッカーで対戦相手の一人だった御崎瀬良と、同じクラスの佐藤英二の二人だ。

「なんでBLなのかな～……。ま、誰がどのキャラを好きになるかは自由だし、人間ドラマも見どころだから、そう思ってもあながち間違いじゃないけどさ。でも！ニャンダムの本質はハイクオリティなロボットたちでしょ！！」

　瀬良の言葉に英二がうんうんと頷きながら語り出す。

「うん、ニャンダムＲと言えば、本来は宇宙戦用の汎用機体を陸戦用に改修した陸戦型ミケＪ型のミリタリーな雰囲気の素晴らしさ。逆に宇宙での空間機動戦闘に特化したミケＲ－１型と、その発展型ミケＲ－２型の洗練ぶり。それと白兵戦用のタマを改造したタマカスタムのストイックな渋さ。あと、水中戦用の機体マロンの機能美的なフォルムのカッコ良さ。さらに、設定のみで本編に出て来ていないトンネル掘削用機体トムの何故か妙に頭に残るダサさ、とか……メカニック関連の魅力を推したいなぁ」

　ニャンダムが純粋に好きな2人は浮月の傍迷惑な振る舞いを噂で聞いて説得しにきたのだが、瀬良は真っ向勝負、英二は反面教師になるような一方的なメカニックトークで己を省みて貰えるようなそれぞれ異なるアプローチで挑んでいた。
　中性的な外見と声を持つ瀬良は強気に、控え目な性格で地味な印象の英二は切々と浮月に語りかける。

　それに対して浮月はというと。

「そうね……私もミケR－2×ニャンダムの可能性と需要はあると思う」
「「は？」」
「王道は大佐の専用ニャク×ニャンダムだと思うけど、その関係に嫉妬したミケR－2がニャンダムを無理やりって言う展開は萌えるわ。あ、擬人化じゃないわよ？ちゃんとニャク×ニャンダムに関してはロボットの姿のままで描かれてる作品もあるし、私も持ってるもの」

　浮月綾世について新しい情報が追加されました。
【無機物でも掛け算（意味深）が出来ます】

「だ、ダメだ、この先輩ー！！！」
「うわぁぁぁ、ニャンダムが、ニャンダムがぁぁぁ！ニャンダム、逃げてぇぇぇ！！」

　浮月のろっこん発動！　
　ロボットとロボットのいちゃラブ合体イメージで瀬良と英二の精神に深刻なダメージ！！

「にゃ、ニャンダムに、そんな♂ジョイントできるパーツなんてついて……ない……」
「ちょっ、君、しっかり！駄目だ、逝っちゃダメだー！！」

　最初に落ちたのは英二の方だった。
　壁に寄り掛かりズルズルと冷たい廊下に伏せる。浮月の妄想に抗い唇をかみしめたせいか、唇の端からはツーっと血を垂らしていた。
　しかしそんな英二の様子に気を留める風もなく浮月はとてもとても良い笑顔で歌うように言葉を重ねた。

「あらあら、イっちゃダメなんて。もしかして鬼畜攻めがお好み？それならやっぱりクロテオの魅力、解ってくれると思うんだけど……」

　瀬良は耐えた。よく耐えた。
　自分の頭の中に無遠慮に入り込んでくる男と男、ロボットとロボットの絡みのイメージと必死に戦った。
　しかし悲しいかな、人の精神力には限界がある。
　そして……。

「は、あははっ、大きなアレが入ったり抜けたりしてる。あはは、大きい……ビームライフルかな。イヤ、違う、違うな。ビームライフルはもっとパーって出るもんな。暑っ苦しいなココ。出られないのかな。おーい、出して下さいよ……ねぇ。♂同士がぶつかり合って暑苦しくて、ねぇ、あははっ……」

　

　御崎瀬良、一時的な狂気に突入。