乙女のプロパガンダ｜リアクション

乙女のプロパガンダ

【薔薇対百合】

　努努天才はお馬鹿である。
　だから難しいことは解らぬ。
　しかし誰よりゲームを愛していた。

「先輩の言ってること、僕よくわかんないなー。BL自体はいいと思うんだけど、僕百合好きだし！」
「百合？」

　携帯ゲーム機でニャンダムのゲームを遊んでいるところを浮月に見つかった天才は、これまでの被害者同様浮月の萌え語りの標的になった。
　しかし重ねて言うが、天才は良い意味でも悪い意味でもお馬鹿であった。
　その為、頭の中に勢いよく流れ込んできた大量のイメージを処理できなかった。
　オーバーロードしたわけではない。
　そうなる前にイメージをシャットダウンしてしまったのだ。
　意識してできることではない、お馬鹿にのみ許された領域である。

「見て、これ！」

　そう言って天才は持っていた携帯ゲーム機の画面を浮月に見せる。
　そのゲームはアクションやシュミレーションゲームで出ることが多いニャンダムシリーズの異色作。恋愛要素が加わった【ニャンダム戦記～愛覚えておけよ～】ポータブル。
　主人公はゲームオリジナルキャラ。
　地球連邦かラクシーン公国か好きな陣営を選んで、それぞれの陣営のキャラクター達と戦争を通して交流、関係を深めていくゲームだ。
　天才が見せた画面には巨乳・美乳・ちっぱい・まな板の4人の白い軍服を纏った美少女が立っていた。

「このゲームではあのクローム大佐の妹達、白い四連聖。長女のＩＥ大尉・次女のファイアフォックス中尉・三女のサファリ中尉・四女のオペラ中尉……この姉妹と恋仲になれるんだ！」
「クローム大佐とは？」
「え？」
「肝心のクローム大佐とは恋仲になれないの？」

　天才も自分の興味あることにしか耳を傾けない人種だったが、浮月もまたそうだった。
　まっすぐな目で天才を見つめ、首を傾げる。
　彼女の目は全く美少女を映していない。
　しかし負けじと天才は更に語る。

「これにはクローム大佐ルートはないよ？だって主人公は男だからね、それよりもこのゲームはイベントスチルも豊富で四姉妹の入浴シーンがね……」
「そう、大佐ルートはないの……。じゃあテオル君は？」
「ルートはないけど、どちらとも友達にはなれるよー。それにこれはそれぞれのルートに進んで誰かとラブラブになるだけじゃなくて、キャラ同士の絡みを眺めることができるから四姉妹が」
「キャラ同士の絡みが！？じゃあクローム大佐とテオル君の絡みも……」
「もー、先輩、僕の話聞いてよー！！」

　天才がゲームや百合について語りたくてもことごとく話の腰を折る浮月。
　こうなったらとっておきの秘策をと天才が思いを巡らせた時。

　キーンコーンカーンコーン。

「あ、昼休み終わっちゃうわね。じゃあね、天才君。ゲーム見せてくれてありがとう」

　浮月は笑顔で手を振って自分の教室へと戻っていく。
　その後ろ姿を眺め、ろっこんを発動し損ねた天才は頭を掻く。

「あーあ、ゲームの中に連れ込めればこっちのものだと思ったんだけどなぁ」

　努努天才、ただのお馬鹿ではなかったが、浮月には一歩及ばす。

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