R&R Agency：File04：ウジョニャウの怪｜リアクション

R&R Agency：File04：ウジョニャウの怪

● ２日目夜：穴

　一同は廃校に駆けつけた。
「西の端の教室って言ったら、昼間、めまいを感じたあの教室だよな」
　校舎内に入るのは危険かもしれない。刀が皆を外から回るよう誘導し、窓から中を覗き込む。ウッと咽るような匂いがした。皆が一斉にライトで照らすと、教室の床が抜けて穴が開いている。
「この匂い、もしかして三浦さんが言ってた匂いかしら？」
　エヴァが鼻を抑える。修も同じ印象を持った。
「たしかに『腐ったような、背筋がぞっとするような匂い』だな」
　匂いは穴から漂ってくるように思われた。
「鎌八！」
　返事はない。
　サキリが梨香にろっこんの使用を頼み込んだ。
「坂内先輩、先輩のろっこんで神魂をチェックして貰いたい」
「いいわ。視てみる」
　梨香は、ポケットから取り出した琥珀のペンダントを目の前に翳しろっこん＜魔法使いの目＞を発動させる。このろっこんは、見た対象に神魂の影響があると揺らいで見えるのだが、今は視界に変化はない。
「神魂の影響は感じないわ」
「ということは、匂いを発する何かがこの下にあるってことか」
　サキリは唇を舐める。
「僕が見てこよう」
「ひとりで？」
「僕にはろっこんがある。いざとなれば瞬間移動で逃げ出すさ」
　サキリは片手に抜き身の小型ナイフを構え、もう片方の手にライトを持って、空間を切り裂くイメージを作った。＜斬空赤刃＞を発動させる。サキリの姿がその場から消える。

「――っ」
　サキリは真っ暗な空間に姿を現し、そのまま重力に従って数メートル落ちた。
　ガチャガチャッと積み重ねた薪を崩したような音がする。異臭が強く感じられる。
　大丈夫か！？　と頭上に開いた穴から刀の声がした。
　大丈夫だと叫び返し、ライトを周囲に向けてみる。
「――っ」
　その瞬間、サキリは息を呑んだ。
「これは――」
　骨だ。無数の、骨。サキリが落ちたのは骨の山の上だったのだ。
「ウジョニャウは浮かばれない霊……これが、ウジョニャウの本当の正体――」
　サキリのライトの光に向かって、かさかさと一匹の蜘蛛が寄って来た。サキリは小さく呼びかける。
「鎌八か？」
　蜘蛛はそうだと前足を上げた。サキリは蜘蛛を掬い上げると、再び強くナイフを握った。
「戻ろう。長居する場所じゃない」
　空間を切り裂くイメージ。切り裂いた先は、皆の待つ校舎の外――！

「おかえりなさい！」
　校舎の外に現れたサキリは、待ち受けていたアケーチに抱き止められた。
　まもるもろっこんを解いて人の姿に戻る。
「ひやっとした。蜘蛛と髑髏は似合いだが、現世のほうが好みだぜ」
　ユリウスがワウと吠える。
　教室の床の穴からゆるりと白い煙のようなものが昇り、ウジョニャウの姿を形作る。背中に綾模様を背負った大猫は、ちらりとユリウスを一瞥したが、襲い掛かっては来なかった。
「ウジョニャウ……見つけてほしかったの？」
　円が言った。
　ウジョニャウは答えず歩き出した。
　破れた窓から飛び出し、校舎の裏手へ。
　あの獣道の先へ――。

　ユリウスが追いかける。そのユリウスを月も追いかける。
　月のあとを、ほかのみんなも追いかける。
　獣道を抜けて、昼間見つけた穴の前に出る。
　ウジョニャウはそこでいちど立ち止まって振り返った。
　まるでさよならを言うみたいに。
　それからウジョニャウはひらり、穴の中に飛び込んだ。
　ユリウスが鼻を鳴らして月に知らせる。
　今まで気づかなかった。穴の中からはうっすらと、あの『匂い』が漂っていた。

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