３月の★ハッピーバースデー｜リアクション

３月の★ハッピーバースデー

●２８日

「お　ひ　る　だーーーっ！！！」

　ありがとうございましたっ！　とバスケ部員の声が体育館に響いた後、うーんと羽生碧南は体を伸ばした。
　学校は休みでも、部活は休みではない。この日もバスケ部の練習はハードだ。ストレッチに始まりグラウンドで走り込み。それが終われば体育館に戻ってドリブル練習パス練習―――これだけであっという間に午前中が終わってしまったのだ。
　練習すればするだけ腹も減る。だって、育ち盛りだもん！
　１８０センチの体を維持するのも大変なのだ。碧南はるんるんと食堂へ向かうことにした。

　何を食べようかなと渡り廊下を過ぎ北校舎を歩いていた時だった。碧南は前方に見知ったちんまりした人影を発見する。碧南はその長い腕をぶんぶんと振り駆け寄った。
「浅井先生ー！」
　ひょい、と浅井幸太が振り返った。
「おう、羽生じゃないか。部活か？」
「はい、そうです！　先生も？」
「ああ。でも陸上部はもう上がりだ。俺はこの後ちょっと用事があるからもう帰ろうかと思ってたんだ」
　碧南を見上げて幸太が言う。２人の身長差１６センチ。非常に微笑ましい（？）光景だ。
「そうなんですかー。あ、先生」
　少し背を屈め見下ろすように話していた碧南が突然ピッと姿勢を正すと、幸太に向かってペコリとお辞儀をした。
「１年の時はお世話になりましたー！」
「お？　何だ何だ改まって」
　笑いながら幸太が言った。

　思い出す１年１０組の日々。ワイワイと元気すぎるくらい騒がしく楽しかったが、それはきっとそれは幸太の人柄によるところも大きいのだろう。
　２年生に進級したら、幸太のクラスにはならないかもしれない。
　でも、また体育の授業で先生には会えるから。泣いたりなんかはしないんだ。

　碧南は頭を上げると、えへへと照れたように笑う。幸太が腰に手を当て苦笑しながら碧南を見た。
「しかし……無事進級出来て良かったな、羽生。先生どうなるかと思ったぞ」
「私もやればできる子なんですよ」
「ははは、なるほどな。ま、これからは先輩と呼ばれる立場になるんだから、もっと自覚を持てよ」
　幸太はパン、と碧南の腕を叩く。本当は肩を叩きたかったのかもしれない。
「はい！」
　碧南は笑って頷いたが、そうだと気付き幸太を見た。
「先生、今日誕生日じゃない？」
「おー、覚えててくれたのか」
「やっぱり！　おめでとうございます、先生。じゃあジュースでも奢りますよ！」
　弾むように碧南が言った。

　ガコン。
　幸太のリクエストはスポーツドリンク。碧南は食堂まで幸太と一緒に行くと、入り口の自販機で買った冷えたペットボトルを幸太に渡した。
　その後、進路のことなどを少し幸太と話した。碧南は自分の家庭の経済事情が一応好転し、進学に前向きになっていることを幸太に告げる。
「それは良かったじゃないか。じゃあスポーツ推薦狙って頑張らないとな！」
　自分のことのように幸太は喜んでくれた。

「……っと、話しこんじゃったな。羽生、飯食うんだろ？　悪かったな」
　ふと腕時計を目にして幸太が言う。これ、サンキューな、とペットボトルを高く掲げ、幸太が歩き出した。その背中に向かって碧南は言った。
「先生ー、新学期になってもよろしくお願いしますね！」
　幸太が振り返り、碧南に向かって親指を立てる。碧南もピッと親指を立て、手を振ってまた歩き出した幸太を見送った。

　先生が担任で、良かった。また、新学期ね！

このページにイラストを設定する