～いぬイヌの国～満開のさくら祭り｜リアクション

～いぬイヌの国～満開のさくら祭り

　一度その大きさで人を集めてしまえば、後は注目まっしぐら。
　いぬ皇の巨体はいぬの度合いを出なくとも大層目立ち、それを元にして恵御納夏朝と八神修は一度会いたいと話していた、いぬ皇と遭遇する事ができました。
「おお！　わ、我が友おさむではないか！」
　前回出会った事を忘れることなく、とても慣れていない様子丸出しでもありましたが、いぬ皇は修を『友』と呼びました。

「うむ、そちらの橙色の柴いぬも、『はろうぃん』の祭りにおったワン。名前を名乗るがいいワン」
「はいっ『えみな、かーさ』です」
「うむ、かーさか。珍しいが良い名だな」

　こうして、甘酒とつまみをまじえてさくらを見ながら、主に夏朝と修はいぬ皇との会話──……もとい、修の案によるプレゼンテーションが行われていました。
　話の主軸は修で、夏朝は各所しょうぐんが不快そうな気配を見せたところのフォローに回ります。

　修が提示したテーマは『にくきゅうぴっく』

「『ねことの総合競技大会の定期的な開催』……？」
　それはとても楽しそうで、しかし──それを聞いて出たしょうぐんの声は、低く、流氷が競り合い割れたかのように重く鋭いものでした。

「町中でのいぬ達の反応はとても良いものでした。『中立共存の会』からも称賛の声を頂いています」
「……」
　修の言葉は、
　『民衆の意思は出ている。
　ここで否定すれば、決定権を所持しながら、いぬ皇一人がごねている』という現状の状態を明瞭に叩き付けるものでした。
　ハロウィンの状況を見た限り、ねこの王さまも似たようなものでしょう。
　故に、ここでいぬ皇が頷けば『全てが、上手く行く』のです。
　いぬ皇にも、その事実は話を聞いて良く分かっていた様子でした。

「スポーツで競うんだ。
　戦争じゃなくスポーツに昇華するんだよ」
　修が楽しそうに筋道を立てて語る程、いぬ皇から、口を塞いでも足りない僅かな歯ぎしりが聞こえました。
「相手とも触れ合える。
　互いを良く知ることもできる。
　共通する問題が起きても、交流のパイプが有れば力も合わせ易い。
　なにより、とても楽しいんだ」
　修は、こうして『いぬ皇以外の全ての存在』はこの提案が、如何に素晴らしい案であるかを告げて──
「見つけたでござるワン！　いぬ皇！」
　同時に声と共に駆け込んできたのは、『中立共存の会』のいぬ達でした。
「この方は、我々に今のような物凄く素晴らしい提案をして下さるでござるワン！　悪いところなどどこにもないワン！
　なのに！　そちらと来たら！　そちらと来たら！！」
「い、いぬさん達！　言い過ぎだよ！」
　先程から、いぬ皇からただならぬ気配が漂っています。夏朝は気が気ではない思いで、後から来たいぬ達を留めようとしました。
　しかし、中立共存の会にとってのチャンスは今。それは畳みかけるように。
「過去の出来事だか何だか知らないワンが『もう誰も知らないようなこと』で、民意とこの方の言う事の一つも聞けないで、何が『おう』だワ──！」

　瞬間──いぬ皇の手の中で、甘酒の入っていたカップが一気に圧縮されるように潰されました。
　中立共存の会のいぬ達も一気に息を詰めました。いぬ皇の手に、甘酒がしたたり落ちます。

「しょうぐんさま！」
「……済まない、かーさ。手を洗ってくるから席を外す」
　いぬ皇は立ち上がりました。

　ふと、意図せず後ろ姿を向けた修にいぬ皇は告げました。
「おさむ……お前ならば立派な『王』になれたのだろうな。
　──悪いが、我には釣り合わん。
『友達』は解消させてもらう。我は己の我を通し、今尚、民の心一つ汲めない暴君だ」