見知らぬ世界でコンニチハ｜リアクション

見知らぬ世界でコンニチハ

　　　２

「しかし、探すったって、どこを探せば」
　途方に暮れた学に、雅樹は黙ってスマホの画面を見せた。莉鳥が最後に送ってきた写真が何枚かある。
「それを……ヒントに……」
　汗は大分引いたが、まだ顔は白い。学は頷いてスマホを受け取った。
　写真には光や巧、それに同行していた志波武道、椿美咲紀、八神修が写っている。莉鳥の姿がないのは、撮影者だから仕方がない。
　記念撮影というわけではなく、状況報告といった体なのだろう。隠し撮りに近く、ピントが合ってないものも多々あった。また背景がほとんど植物なので、一体どこなのか全く分からない。
「……順番に」
　雅樹に言われた通り、メールを遡り、ロープウェイを降りた直後の写真を見る。その場に立ったまま、ぐるりと辺りを見回した。
「これ、ここの端に写ってるの多分、寝子杉。ということは方向はあっちっすね」
　砂掛谷の寝子杉から方向を判断し、二人は道を外れた。といっても、本来なら遭難するほど危険な場所ではない。
　三十分ほど歩き回り、ようやく最後の写真――らしき――場所に辿り着いた。その頃には、雅樹の顔色も大分良くなっていた。ここは平地である、という思い込みが効いているのかもしれない。
「おーいっ、椎井ー！」
「東門ー！　みんなーっ！」
　耳を澄ますが呼びかけに返ってくるのは、木霊だけだ。
　雅樹は何も表示されていないスマホの画面を見て、厳しい顔つきになった。先程上げたスマホの壊れた、もしくは電波が届かないという状況は、そろそろ考えから捨てた方がよさそうだ。
「何だあれっ？」
　学が素っ頓狂な声を上げた。
　彼の視線の先には、ソフトボール大の玉が落ちていた。赤、青、黄色、紫、黒……様々な色が絶え間なく、生きているかのように渦巻いている。
「何だこれ……」
　近づきながら、雅樹も掠れた声で呟いた。何とも禍々しい色と動きをしている。見ているだけで吸い込まれそうだ。
「触るなよ。もしかしたら、何かヤバイものかもしれない」
　学は頷き、足元に落ちていた小石を拾い、投げつけた。小石は玉に当たって、こつんと落ちた。
「幻……とかじゃないな。実在するみたいだ」
「んじゃ、今度はもうちょっと直接的に……」
　次に三十センチほどの枝を見つけ、それで突いてみた。
「どうだ？」
「なんか……感触はないけど、かといって、すかすかってわけでも……紙を押してるみたいな？」
　学は首を傾げながら答えた。どうにも例えようのない感触だ。
「どうする？」
「何だか分からないし、置いておくのも心配だし、どっかに持っていくとか」
「どっかって、どこだ？」
「うーん……東門ち？」
　こんなものを持ってこられたら、大家の城之内小百合（じょうのうち・さゆり）もさぞ迷惑だろうと雅樹は思った。
　いやそもそも、この玉が巧たちの行方不明に関わっているという証拠はどこにもない。
「取り敢えず判断は保留して、回収だけするか」
「そっすね」
　カバンにでも入れようと学が手を伸ばしたその時、雅樹の目の前を小さな虫が横切った。
　その虫は真っ直ぐ、何の警戒心もなく、玉へぶつかっていき――ふっと消えた。
「待て！！」
　学が手を触れる直前に、雅樹は彼の肩を掴んだ。
「な、何！？」
「今、虫がその玉に吸い込まれたぞ」
「へ？　見間違いじゃ？」
「違う。絶対に消えた。吸い込まれるように……触るなよ？　もしかしたら、そいつは生物だけに反応するのかもしれないぞ……」
「で、でもじゃあ、このままにしとくってことすか？　他の人が触らないように、俺たちで見張るとか？　無茶だ！」
「逆に考えるんだ。そんな怪しい玉、絶対に何かある。……あいつらが消えたワケと何かな」
　学は息を飲み、玉を見つめた。その向こうに、巧たちの姿があるのではないか、と一瞬、そんな考えが過ぎった。

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