めがねびよりっ！｜リアクション

めがねびよりっ！

「……こんな感じ、だろうか……」

浅葱あやめは貼り終えたセールのポスターを眺めながら言った。
他にもささやかに飾られた造花など、セールというのを意識したものがいくつか見られる。
　
セール中、様々な来客があった。
なかにはそのポスターをキッカケに来店したという人もいた。
誰かが来店したときは小さく頭を下げて、最初の挨拶。

「……いらっしゃいませ」

基本的にはカウンター内で作業しながら密かに様子を伺う。
あやめからは必要そうならば静かに声を掛けるようにしたが、
できるだけあやめを気にせず眼鏡をゆっくり選べるように配慮した。

あやめは『眼鏡は顔の一部になる』と考えている。
だから顔の輪郭、眉、目の形やそれぞれの配置、表情の作り方。それらから総合して判断する。

決してその人の顔を殺さず引き立てるように。
『見られたい自分』『なりたい自分』に近づくことができるように。

そのためには聞き取りと観察を怠らず、通常の眼鏡は勿論、
ファッション眼鏡やサングラス、目を保護する偏光レンズやPC用眼鏡、スポーツ眼鏡など。
目の前の相手が求めるものを最大限に叶える選択を目指す。
だから相談を受けたときは、いくつかフレームを提示して、試着と話し合いを繰り返しながら選んでもらう。

視力測定は特に慎重に。
最後に頭を締め付けないよう、ずり落ちないように丁寧にフィッティング。

「……ありがとうございました」

最後の客を見送る。もうすぐ閉店時間だ。あやめは閉店準備を始める。

今回のセールは販売価格の割引だけでなく、春らしい眼鏡拭きやケースを選べるというのがあった。
新生活応援と銘打ったセールにぴったりだし、
それらを楽しそうに選ぶ相手の姿は、あやめにとっても嬉しい光景だった。

「……ああ、お役に立てただろうか……」

笑顔で帰っていった人たちを思い出しながら、そう呟いた。

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