めがねびよりっ！｜リアクション

めがねびよりっ！

「最近、PCと携帯で目を酷使しすぎている気がする」

逢坂魁は目を軽く閉じながらそんな事を思う。
なまじ人より視力がいいだけに、それらを使用した後は目の疲れが極めて酷い。
そこでふと思い出したのが、記憶のどこかにあったブルーライトカットの眼鏡。
今よりは目への負担が減るだろう。そう思い、空いた日に『浅葱眼鏡店』を訪ねた。

店のなかに入ると、見知った顔に気づく。
同じ高校に通っている八神修だ。
彼も眼鏡を買いに来たのだろうか。魁は修に近づき、声をかける。

「八神。お前も眼鏡を買いに来たのか？」
「ん？　おお、逢坂」

修は驚きと喜びの合わさった表情を浮かべた。
まさか眼鏡店で魁と遭遇するとは思わなかったのだろう。

「俺は遮光できる眼鏡をね」
「なるほど。俺はブルーライトカットの眼鏡を探しにきた」
「ブルーライト……成程、良いかもしれないね」

修はコンピュータの扱いに長けている。
その分、そういった目の疲れも十分想像できる。
それからお互いの近況などを話し合った。
しばらくして修は遮光グラスのコーナーへと移動すると、それらの吟味を始める。
魁も棚に並んだ眼鏡を観察するが、自分のセンスにはあまり自信がない。

しかし今は幸運にも修が同じ店のなかにいる。

（八神を見ていれば少しは参考にな……――！？）

魁は目を見開いて驚いている。
目線の先には遮光グラスを掛けた修の姿。
それだけならここまで驚かない。明らかに普段の彼から想像つかない雰囲気を放っていた。
その視線に気づいたのか、修が魁に声をかける。

「どうした？」
「あ、その、どの眼鏡にしようかと」
「ふむ。なるほど。ならば、貴様に合う最良の１本を選んでやろう。任せておけ。なに、俺様には造作もないことだ」

修は魁のいる棚へ移動すると自信に満ちた様子で陳列された眼鏡を吟味する。
その間も魁の驚きは止まらない。その表情に気づいたのか、修は怪訝な顔で魁のことを見ている。

「何を驚いている？　……って、……あー」

修は眼鏡を慌てて外した。すると先ほどまで纏っていた雰囲気が消えていく。
そこには魁が知る、いつもの修が居た。

「……、――大丈夫か……？　――いや、何が、という訳ではないのだが」

かける言葉を慎重に選びながら話しかける。それを聞きながら、修は申し訳なさそうに魁のほうを向く。

「俺、眼鏡をかけると口調が変わるらしいんだよ。でも一人称まで変わってたかぁ……。俺様はないよなあ。驚かせてごめんな」

修は額に手を当てると『あちゃー』といった苦笑いを浮かべる。どうやら眼鏡による変化自体は無自覚らしい。

「……そうか、なるほど。八神は眼鏡を掛けると人が変わるのだな」
「ほんとごめんな」
「いや、悪いことではない。それも個性だ。……ただ、少し驚いた」

話を聞いて魁はようやく理解した。確かに最初は驚いた。
修の日常を知っていれば驚かない人物はいないであろう位には驚いた。
しかし、こうして事情を聞けばなんてことはない。個性の１つだ。魁は改めて自分のなかで納得した。
それから２人で一緒に店内を巡る。様々な種類の眼鏡が２人の興味を惹く。

「色んなフレームがあって面白いな。これとか竹だよ」
「こんなフレームもあるのか」

「こっちはハデだ。服を合わせるのが大変そう」
「そうだな」

「あ！　これとか、逢坂に似合いそうだぞ！」
「ふむ……こういう選択肢もあるか」

時には驚き、時には笑う。２人は楽しい時間を過ごした。
友人の意外な一面というのはこういう時に見えるものなのかもしれない。

修は店主の浅葱あやめや魁の意見を参考に、遮光眼鏡を購入。
ケースはチタン製のシンプルなデザインにした。
一方、魁は修から勧められたハーフリムを選択。
色は澄んだ空を思わせる青色。２人はそれぞれ選んだ眼鏡を片手に店を出た。

外に出ると言うまでもないといったように、一緒に星ヶ丘へと向かう。
店内ですっかり意気投合していた。

「あ、ナイロールタイプの伊達眼鏡を１本買ってもよかったかも」
「なぜだ？」
「かけてる感が薄ければ、妙な言動にならずに済むかなぁ……なんてなっ」

修は軽い調子で笑った。魁もつられるように小さな笑みを浮かべる。
しかし、ふと修が何かを考えるように小さく空を仰いだ。

「どうした」
「２年になると受験勉強に割く時間も増えるからなぁ。生徒会は卒業して勉強に専念……かな」
「判断を急ぐ必要はないだろう。ただ、目は大事にしたほうがいい」
「だな。視力は維持で」

それから２人は他愛のない会話を続けた。
それはとても有意義で、素敵な時間だった。

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