めがねびよりっ！｜リアクション

めがねびよりっ！

獅子目悠月とオルカ・ヴィヴァルディは、出かけた先から家に向かおうと旧市街を歩いている。
そのとき、ふとオルカが立ち止まった。
その目線の先には木造の建物、そこに『新生活応援セール』と書かれたポスターが貼られていた。
ドアの横には『浅葱眼鏡店』と書かれた簡素な看板が置かれている。

「ふ～ん、新生活セールねぇ」
「何か気になるものでもあったのか？」

悠月も足を止め、オルカを覗き込むように尋ねた。
その目線をたどると悠月もポスターの存在に気づいた。

「……視力が実は悪かったりするのか？」

悠月は小首を傾げて、オルカに問いかける。

「全然。普段眼鏡なんてかけないけど、クールな感じの曲の時に二人で眼鏡かけるとかど～お？　カッコよくない？」
「ああ、そういう。なるほど、悪くないな。いいぞ」
「そうと決まれば早速選んでいこっか！」

オルカは悠月の手を引っ張って店のなかへと歩き出した。

店内は種類・ブランドごとに眼鏡が整理された状態で並べられている。
片隅のパーテーションで区切られたスペースは視力検査などを行う場所だろう。
カウンターでは店主の浅葱あやめが何か作業を行っている。

「……いらっしゃいませ」

あやめは立ち上がり、２人を迎えると、ふたたび作業に戻る。

「はじめて入ったが……すごいな、こんなに種類があるのか」
「へえ～全然意識したことなかったけど眼鏡って色々な形があるんだね」

２人は店内をゆっくり歩きながら陳列されている眼鏡を眺める。
オルカは悩ましげな表情を浮かべている。

「悩むな～。見た目だけじゃわかんないよねぇ。店員さんに聞いてみよう。すみません、これ試着してみていいですか～？」

あやめは小さく頷く。
それを確認するとオルカは早速色々なタイプの眼鏡を試着し始める。
いくつか掛けてみたところ、ウエリントンとハーフリムがよさそうだなと目星をつける。

「悠月はどっちがいいと思う～？」

オルカはその２つを交互に掛けて、悠月に向かってカッコつけた顔をする。

（どちらも似合うが……無駄にカッコよく恰好をつけているその表情が些か腹が立つ）

オルカのドヤ顔に対する感想はさておき、
悠月は、自分より少し上にあるオルカの顔に手を伸ばすと眼鏡を外し、フレームを指で撫でた。

「どちらもいいんじゃないか？　ハーフリムのモノの方がしっくりは来るが、ウエリントンはステージでかけていることがちゃんと見えそうだ」
「なるほど、それならどっちも買っちゃおうかな！」
「なんだ、無駄に張り切っているな」

思わずオルカの発言に顔をあげる悠月。

「２本買うと安くなるって言うし～。プラスになりそうな物にはお金を惜しまない主義なんだ」

オルカは例のポスターを指し示す。
そこには２本目から同時購入で３０％OFFという内容が記されていた。

「成程な……そういう事なら俺もいくつか選んでもいいな」

悠月はどれにしようかと思案しながら、並んでいる眼鏡を見る。
しかし種類が多く、即決というのはなかなか難しい。

「悠月は……コレとかいいんじゃないかな」

考え込む悠月に横から声をかけるオルカ。
その手には赤いフレームのハーフリムとスクエアの眼鏡があった。
悠月は、髪の色と合うし試してみるか、といった気持ちでそれらを受け取った。

「どうだ？」

交互に試してオルカの顔を覗き込む。

「Bellissimo～！　すごくイイ！」
（榛色がレンズ越しにちょっと上目遣いなのがとってもたまらないね！）
（いや～普段見れない悠月を見れて役得ってカンジ）
「悪くないなら俺もこれにするか。俺が赤なら……お前は青でもいいんじゃないか？　濃い青が髪の色と合ってる」

そう言ってオルカに青色の眼鏡を手渡す。
オルカがそれをかけると、悠月は思った通りと言わんばかりに頷いた。
それを見てオルカも満足そうな表情を浮かべた。会計を済ませ、２人は店をあとにする。

「いい買い物をしたな～！　早速コレつけて練習しよう」
「ああ、悪くない買い物だった。帰る予定だったが……今からオルカの家に行くか」
「オッケー！」

これからきっと楽しい時間が始まることだろう。

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