めがねびよりっ！｜リアクション

めがねびよりっ！

旧市街。
鉄砂縫はメガネ屋を探し歩いていた。
愛用していた伊達メガネが壊れてしまい、新しいものを購入するために。

「新しい春みたいな意匠のメガネがいいわね」

寒さも和らいできて、春の訪れを肌で感じる。
ならばその季節にあったものがほしいと思うのは自然なことだろう。
そう思いながら歩いていると『浅葱眼鏡店』と書かれた看板と、そこに建つ木造家屋が目に入った。
彼女は店のドアを開けた。

店内には眼鏡が種類やブランドごとに綺麗に並べられていた。その色や形に興味を惹かれるまま棚に目をやる。

「……いらっしゃいませ」

声のしたほうに目を向けるとカウンターに浅葱あやめがいた。
カウンター内でなにか作業をしているようだ。縫は彼にゆっくり歩み寄ると声を掛けた。

「すみません、伊達メガネを見つけたいのでしばらくお店を見させていただきたいのですが。構いませんでしょうか？」

そう声を掛けられたあやめは小さく頷き返した。
縫はそれを確認するとホッとした笑みをこぼした。

「では、早速♪」

好奇心の赴くままに店内を歩き回る。
棚に収められた眼鏡は、種類やブランドごとにきちんと整理されている。
セール中というのもあってか、バリエーションも様々。

「綺麗な桜色……ううん、でも若すぎるかしら」
「こっちは？　タンポポみたいな可愛い黄色！　……うーん、ちょっと可愛すぎるかしら」
「青空のフレームもいいわね、仕事中にみると元気がもらえそう」
「学者風の丸メガネもすてき！　……私にはまだ早いかしら」

縫は独り言を呟きながら、眼鏡を探す。
しかし、どれもそれぞれの魅力があり、なかなか選べない。
そこで縫はそれらを手にとると、あやめのもとへ近づく。

「あのう」
「……はい」
「メガネが決まらなくて……どれがいいか見繕ってもらっていいですか？」
「……かしこまりました」

あやめは縫の顔を見ながら、彼女が求めるものを最大限に叶える選択を考える。
その手元には桜色、黄色、青空、丸メガネと多様。あやめは少し考える素振りをすると、縫に声をかける。

「……お求めの眼鏡は、どういった目的でご利用でしょうか？」
「目的、ですか」
「……はい」
「この桜色は、普段使いです。タンポポはピクニックのお出かけ。青空のフレームは仕事用に、学者風の丸メガネはお偉いさんと会ったとき用です！！」
　
縫は自分の思った目的を、ストレートにあやめに伝えた。

「……こんなこと言ってるから決まらないんですよね」

自信を持って言い切った後に、ふと我に返ると縫は顔を真っ赤にして、あやめから視線を少しそらす。

「……なるほど……ありがとう、ございます」

あやめは縫の顔を再度観察する。
彼女から聞いた目的、実際にかけた姿や状況を想像すると、なるほど自然にはまる。
それぞれの場面で使い分けることで、彼女の求める理想に近づけるだろう。

「……全部、似合うと、思います」
「全部、似合いますか？」

あやめは嘘偽りなく、眼鏡の専門家として素直な感想を述べた。
縫はそれを聞いて、改めて手元にある様々な眼鏡に目を向ける。そしてある決断を下した。

「それじゃあ全部いただきます！」

まっすぐな返答。
先ほどまでの悩みが一気に吹き飛んだような、澄んだ声色だった。
あやめは購入数を念のため確認する。

「ええ、ええ、こういうのは大人の特権ですもの。ああ、かけるのが今から楽しみ♪」
「……ただいま、セール中でして……。こちら２本目から……３０%の割引をさせていただきます」

思いがけぬ幸運に彼女は嬉しそうな表情を浮かべた。
フレームが決まり、あやめはフィッティングなどの作業を行う。
それらが滞りなく済み、春らしい眼鏡拭きクロスやケースとともに袋に収めると縫に手渡す。
彼女は嬉しそうにそれを受け取った。

「ありがとうございました♪」

縫は軽やかな足取りで店を後にした。

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