めがねびよりっ！｜リアクション

めがねびよりっ！

「新しい生活が始まる季節……ちょっと眼鏡でイメージチェンジしてみようかな」

神薙焔はそんなことを思いながら旧市街を歩いていた。
今までゲームで目は酷使してきた自覚はあるが、視力は悪くない。むしろ良いくらいだ。だから眼鏡には縁がなかった。
しかし伊達眼鏡という、ファッションアイテムとしての眼鏡には少し興味があった。

「こう、すこしお淑やかな感じに、見えたりしないかしら。文学少女的な？」

彼女なりの文学少女を思い描いていると、ふと『浅葱眼鏡店』という看板が目に入った。
入り口付近には新生活応援セールを謳うポスターが貼られている。

「……ほう、新生活応援セール。今の状況にぴったりね。ここの眼鏡屋さんは、お兄さんの顔色と目つきは悪いけど、見る目と腕は確かって聞いたわよ」

焔は丁度いいタイミングだと思い、店の中へと足を踏み入れた。

店内には様々な種類の眼鏡がずらりと並んでいる。
焔は自分の欲しい伊達眼鏡をイメージする。

「『ヸオロンのためいきの身にしみて……』みたいなのが似合いそうな。……それは秋か」

焔はポール・ヴェルレーヌのある詩を思い浮かべながら、店内の眼鏡を眺める。
しかし数や種類が多く、なかなか自分のほしいものが見つからない。
そこで店内を見回すとカウンターに浅葱あやめが居るのに気づいた。
顔色と目つきが悪いというのが第一印象。聞いたとおりの人物だと焔は思った。
しかし物怖じすることなく話しかける。

「すみません」
「……はい」
「軽めの細いフレームで、そういうのが欲しいんだケド、あるかしら？」
「……軽めの、細いフレームですね。……少々お待ちください……」

あやめは焔の顔を観察すると、似合いそうな眼鏡の形を想像する。
さらに聞き取りをしながら、その想像を固めていく。
そして、あやめは棚からフレームをいくつか焔の前に持ってきた。
ファッション用を希望しているようなので、デザインを優先したものが多い。
焔はそれらを眺めながら吟味を始める。

「どれもいいわね……」

彼女は実際に手にとって掛けると鏡で姿を確認する、というのを繰り返す。

「コレは……おお、このフレームの軽さとそれでいてしっかりした感じ。気に入ったわ。レンズの形はこの小さくて四角いやつで、ハーフリムのスクエアね」

どうやらお気に入りを見つけたようで、嬉しそうに話す。
あやめは要望を受けて、そのフレームに度の入っていないレンズをはめる。
最後に頭を締め付けないよう、ずれ落ちないようにフィッティングを行う。
焔は満足そうに鏡で自分の姿を確認している。あやめはそれを一旦預かり、袋に収める前に話し始めた。

「……今は、その、セール中で……」

焔はその説明を聞くと、桜をあしらった眼鏡用品に興味を持った。

「この桜のケースとクロスも一緒にお願いします。新学期の楽しみがちょっと増えたわ」
「……ありがとうございます」

焔はあやめからそれら一式が入った袋を手渡されると、満足そうに店を出た。

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