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- 学年：職業
- 00月00日生 00歳
- AAA000000
満員？満開？ むぎゅう
●愛しき匂いにうずもれて
高く昇り切った月灯りが、星ヶ丘寮のとある窓辺に居る少女を優しく照らす。
浮かび上がっている少女の影が、右に、左に、傾いだと思うと四角い影がそこからさぁっと逃げていく。
四角い影たちの元であるスケッチブックのページたちが今、桜 月の足元に散乱していた。
「うーん……」
少し鉛筆を走らせてみては、べりぃっと剥がしじっと見つめ……また床に一枚増える。
―― いつもはこうやって、紙に描いていく事でまとめられるんだけどな……。
どうにも、自分の頭に浮かぶデザインがあやふやのまま揺蕩って、具体的な姿に形成されない。
「あー、もうっ！」
こんなことは、彼女と出会ってからはあまり無かったのに。
もっとも気持ちを落ち着かせられるはずのデザインがままならなくなって、月は背もたれにだらしなく体重を預けた。
ちらり。足元見やれば苛立たしさの象徴のように散らばる、中途半端なデザイン画たち。
無性に、その上を転がりたい衝動に駆られる。
月のデザインに対する姿勢は、無意識にもはやプロのそれと同じであるゆえに、普段であればそのような衝動自体起こることなどあり得ない。今はそれ程に、心が乱れている証拠なのであろう。
とはいえ、どんなに苛立ちに身を任せたとて、実際にデザイン画の上を転がるなど決してしないわけだが。
しかしそのもう一つの呼吸法とすら言えるデザインが、今は一向に進みを見せない。
諦めたように立ち上がると、月は服を脱ぎ捨て下着姿のままベッドへと倒れ込んだ。そのままシーツに身を沈めてゴロゴロ転がってみる。
ふと、恋人でありメイドでもある彼女の顔が浮かんだ。その彼女は自分に言うのだ。『月さん、みっともないですよ』と愛らしい瞳を少しだけ吊り上げて。
頭の中の彼女へ、ごめんと思いながらも転がる身体を止められなかった。もどかしさや苛立ちが、月の体の主導権を握って揺らしているかのようで。
彼女の次に浮かび上がったのは、自分を引き取り育ててくれた祖父母の顔。
―― こっちに来て一人で過ごし始めてから随分だらしなくなった気がする……お祖父さまとお祖母さまに呆れられてしまうな。
呆れながらも、しょうがないなといつものあの優しい顔で、頭を撫でてくれる気もするけれど。
しきりに動いていた体を意図して止めれば、ぽふっと今度はうつ伏せになった。
深呼吸すると、しっかりと日中干しておいてくれたのだろう、お日様と彼女の匂いが鼻孔をくすぐって。そのままシーツに顔を埋めてじっとする。
一番記憶に新しいシーツと彼女の感触がありありと思い出される。星が綺麗に瞬くのを映した思い出深い部屋で、一晩中肌を重ねたホワイトデーの夜を。
お風呂上りの、石鹸と自身の体臭混じった彼女の香りがシーツに擦れ広がっていけば、上に下に、入れ替わるごとに彼女に抱きしめられているような満足感も広がった。
自分へと愛しそうに触れてくれる細い指や可憐な唇、そこから漏れる吐息を思い出して月の身体が熱を帯びた。
熱さに浮かされるように、促されるように自然と手が伸びる。しかしその先に、彼女はいなかった。
当然だと分かっていても、手が空を切る虚しさに心が締め付けられる。ほんの一瞬、あの日見た悪い夢が脳裏をよぎった。彼女に背中を向けられた時の、あの恐怖と虚無感が何も掴んでいない手にまた宿った気がしてしまって。
ふるふると月は目を閉じ首を振る。あの翌日以降、暫く思い切り彼女に甘えたことで心は軽くなったはずじゃないか、と。いつも以上に体を摺り寄せる自分に、彼女は何も聞かず微笑んで、自分を何度も温もりで包み込んで癒してくれた。
だから今は大丈夫。今はまだ。
誤魔化すように、上げた顔を枕へ埋めた。シーツと同じ匂いがした。
少し気持ちが落ち着いたのか、月の心は今度は違う方向へともやもやし出す。
―― 彼女がいつも傍にいてくれればこんな思いしないのに。
当初の苛立ちを半ば八つ当たりのように、あの夜以来保留となっている返事に向ける。
彼女の懸念は知っている。けど強くなるよ、約束したから。だから、ねえ、早く一緒に暮らそうよ……。
今はどうにもならないと知りながらも、むーっ、と足をバタバタさせて悶々としてしまう。
「……今日はもう無理だな」
ひとしきり悶えた後、もそもそと動き出した月は寝間着に着替えて。
大好きな匂いのする枕に頭を、顔を包み込ませれば、程なくして眠り落ちていった。
微かに開いたままになってしまっている窓から、桜の花びらがひとひら、はらりとやってきて月の目元へ、まるで涙のように色づかせる。
すっかり夢の中へ旅立った月の耳の奥で、彼女の困ったような笑っているような、そんな溜息が漏らされたような気がした ――。
高く昇り切った月灯りが、星ヶ丘寮のとある窓辺に居る少女を優しく照らす。
浮かび上がっている少女の影が、右に、左に、傾いだと思うと四角い影がそこからさぁっと逃げていく。
四角い影たちの元であるスケッチブックのページたちが今、桜 月の足元に散乱していた。
「うーん……」
少し鉛筆を走らせてみては、べりぃっと剥がしじっと見つめ……また床に一枚増える。
―― いつもはこうやって、紙に描いていく事でまとめられるんだけどな……。
どうにも、自分の頭に浮かぶデザインがあやふやのまま揺蕩って、具体的な姿に形成されない。
「あー、もうっ！」
こんなことは、彼女と出会ってからはあまり無かったのに。
もっとも気持ちを落ち着かせられるはずのデザインがままならなくなって、月は背もたれにだらしなく体重を預けた。
ちらり。足元見やれば苛立たしさの象徴のように散らばる、中途半端なデザイン画たち。
無性に、その上を転がりたい衝動に駆られる。
月のデザインに対する姿勢は、無意識にもはやプロのそれと同じであるゆえに、普段であればそのような衝動自体起こることなどあり得ない。今はそれ程に、心が乱れている証拠なのであろう。
とはいえ、どんなに苛立ちに身を任せたとて、実際にデザイン画の上を転がるなど決してしないわけだが。
しかしそのもう一つの呼吸法とすら言えるデザインが、今は一向に進みを見せない。
諦めたように立ち上がると、月は服を脱ぎ捨て下着姿のままベッドへと倒れ込んだ。そのままシーツに身を沈めてゴロゴロ転がってみる。
ふと、恋人でありメイドでもある彼女の顔が浮かんだ。その彼女は自分に言うのだ。『月さん、みっともないですよ』と愛らしい瞳を少しだけ吊り上げて。
頭の中の彼女へ、ごめんと思いながらも転がる身体を止められなかった。もどかしさや苛立ちが、月の体の主導権を握って揺らしているかのようで。
彼女の次に浮かび上がったのは、自分を引き取り育ててくれた祖父母の顔。
―― こっちに来て一人で過ごし始めてから随分だらしなくなった気がする……お祖父さまとお祖母さまに呆れられてしまうな。
呆れながらも、しょうがないなといつものあの優しい顔で、頭を撫でてくれる気もするけれど。
しきりに動いていた体を意図して止めれば、ぽふっと今度はうつ伏せになった。
深呼吸すると、しっかりと日中干しておいてくれたのだろう、お日様と彼女の匂いが鼻孔をくすぐって。そのままシーツに顔を埋めてじっとする。
一番記憶に新しいシーツと彼女の感触がありありと思い出される。星が綺麗に瞬くのを映した思い出深い部屋で、一晩中肌を重ねたホワイトデーの夜を。
お風呂上りの、石鹸と自身の体臭混じった彼女の香りがシーツに擦れ広がっていけば、上に下に、入れ替わるごとに彼女に抱きしめられているような満足感も広がった。
自分へと愛しそうに触れてくれる細い指や可憐な唇、そこから漏れる吐息を思い出して月の身体が熱を帯びた。
熱さに浮かされるように、促されるように自然と手が伸びる。しかしその先に、彼女はいなかった。
当然だと分かっていても、手が空を切る虚しさに心が締め付けられる。ほんの一瞬、あの日見た悪い夢が脳裏をよぎった。彼女に背中を向けられた時の、あの恐怖と虚無感が何も掴んでいない手にまた宿った気がしてしまって。
ふるふると月は目を閉じ首を振る。あの翌日以降、暫く思い切り彼女に甘えたことで心は軽くなったはずじゃないか、と。いつも以上に体を摺り寄せる自分に、彼女は何も聞かず微笑んで、自分を何度も温もりで包み込んで癒してくれた。
だから今は大丈夫。今はまだ。
誤魔化すように、上げた顔を枕へ埋めた。シーツと同じ匂いがした。
少し気持ちが落ち着いたのか、月の心は今度は違う方向へともやもやし出す。
―― 彼女がいつも傍にいてくれればこんな思いしないのに。
当初の苛立ちを半ば八つ当たりのように、あの夜以来保留となっている返事に向ける。
彼女の懸念は知っている。けど強くなるよ、約束したから。だから、ねえ、早く一緒に暮らそうよ……。
今はどうにもならないと知りながらも、むーっ、と足をバタバタさせて悶々としてしまう。
「……今日はもう無理だな」
ひとしきり悶えた後、もそもそと動き出した月は寝間着に着替えて。
大好きな匂いのする枕に頭を、顔を包み込ませれば、程なくして眠り落ちていった。
微かに開いたままになってしまっている窓から、桜の花びらがひとひら、はらりとやってきて月の目元へ、まるで涙のように色づかせる。
すっかり夢の中へ旅立った月の耳の奥で、彼女の困ったような笑っているような、そんな溜息が漏らされたような気がした ――。
シナリオ
シナリオデータ
シナリオスケジュール
- シナリオガイド公開日
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- 2017年04月06日
- 参加申し込みの期限
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- 2017年04月13日 11時00分
- アクション投稿の期限
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- 2017年04月13日 11時00分
