深紅の頁｜リアクション

深紅の頁

　武器庫から抜け出し、周囲を見回すジュストはねむるの立てた仮説に従って行動を続けている。
　途中、役所方面へ向かうサキリと合流し、三人になった彼らは『どこからか』飛び出した殺人鬼と相対していた。
「本当に突然出てくるんだね」
　マチェットを二つ。光の速さで移動し、体を捻り上げたサキリが殺人鬼を吹き飛ばす。
　後方へ逃げる様にねむるに促しサキリは彼の眼前へと飛び込んだ。
「ガラ空きだよ」
　短距離を高速で転移し、その体を『ブレ』させるようにサキリは動く。
　それを追いかける様にぐるりぐるりと身を回す殺人鬼の動きはまさしく適当にコントローラーを動かしているそれ。
　遠距離で射撃を行い、足を狙わんとしたジュストはサキリに注意を向けている内に「今だね！」と一気にその攻撃を始めた。
　ヒュ、と空気を裂いた弾丸。
　殺人鬼がバランスを崩しごろりと崩れていく。しかし、それでも応戦して見せると言わんばかりに殺人鬼は体を跳ね上がらせた。
「彼がプレイヤーなのであれば、プレイヤーの残機を０にしてゲームオーバーしか考えられない」
　建物に向かって走り出すねむるの狙いは壁に背を付けながら殺人鬼を弓で狙撃。家の中に沸いたならば刃物で傷つけ眠らせる。
　それを繰り返せばいいのだと彼は事前にジュストと決定していた。
　狙うは『残機』を減らす事だ。
「壁まで逃げるよ」
「了解」
　へらりと笑ったサキリはドットで出来たモブを殺すよりも殺人鬼と戦うスリルに高揚感を覚えるのだとマチェットを持ち替えた。
（この世界において死はあまり意味がない――だから、仲間が『到達する場所』に行ければそれでいい）
　放つ一撃に殺人鬼の姿が掻き消え、何処かでエンカウントの声が聞こえた。

　そして、次に現れた場所は『役所』の中であった。
　役所内に飛び込んできた殺人鬼は楽し気に鎌をぶんぶんと振り回している。
「殺人鬼……！」
　身体を飛び上がらせ、瞬時に反応した圭花は階段を駆け上がり、二階にある非常階段を目指した。
「こっちだ！」
　彼女から視線をそらせるために修が声を上げる。机の上に置かれていた書類が周囲一面に散らばり、住民台帳が踏み荒らされた。
（住民台帳に『彼』の名前はなかった……！）
　ちら、と背後を見遣る圭花には殺人鬼の『無駄』な行動がしっかりと映る。相変わらず、目の前の存在しか見ていない相手である。
　ショットガンを撃ち、相手の武器を『分解』しながら修は走る。
　後方から迫りくる敵を殺さずに、真実に辿り着いて見せると彼は肩で息をした。
　殺人鬼は失った武器に惑う様に足を止めている。今の内だと階段を一気に駆け上がった修へと圭花は資料を手にして、非常階段へと手招く。
「飛び道具を手にされると面倒ね！」
　見たものならば『真似』をできる。その性質が面倒なのは良く分かっていると彼女は毒吐いた。
「ああ、俺の持っているショットガンを拾えば次は飛び道具だろうな」
　手元を確認した後、修が肩を竦め勢いよく扉を蹴り飛ばした。
　開いたその向こう――簡単な造りの非常階段が見える。
　がたがたと階下で音がし、次いで階段を登りくる音がする。
「彼、最初の武器は鎌だったわよね？」
「ああ。鎌だった。今は金槌を持っていたが……」
　殺人鬼が二階へと上がってくることを確認してから非常階段へと飛び出した二人の中で、一つの『結論』が生み出される。
「殺人鬼が一番最初に目にした武器は鎌ってことじゃない？
　……つまり、殺人鬼のルーツはもしかしたら、農家だとか……その線をたどってみるのもいいかもね」

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