――人を殺したことってある?
何気なく問われたその言葉に、少年は手元のゲーム機から目を離さないままに「んー?」と小さく答えた。
――殺してみたかったんだ。
その言葉に、少年は顔をあげる。
黒いマスクにチャックの細工を施した奇抜な様相の線の細い誰かが、焔を思わす色を帯びた瞳を瞬かせる。
――ゲームなら、たくさん殺せるのにね。
手元のゲームには『GAME OVER』の文字が表示されていた。
***
ピコピコと明るい音楽が聞こえる。
コマンドを打ち込み技を放つ格闘ゲームのような軽妙な音楽が何処からともなく聴こえ、
桃川 圭花は顔をあげた。
「どこ、ここ……?」
周辺にあるのは余りにお粗末なグラフィック。ドットで打たれた木々に、硬質さを感じさせるような草。
ゲームの世界そのもののそれを見つめた圭花の耳に届いたのは奇妙なサイレンだった。
あまりに軽妙なそれは『エンカウント』という言葉をその頭に届ける。
圭花の黒い瞳が見る見るうちに見開かれ、彼女は気づいた頃には手にしていた日本刀をゆっくりと構えた。
「何? 敵って事?」
気づけば掌に汗が滲んでいる。
陳腐なグラフィックには不似合な巨躯。傷だらけの躰は動くたびに赤が滴り落ちている。
(血よね――――?)
ぞ、とするほどの存在に圭花は一歩後退りする。状況は、あまり芳しくない。
気づけばこの陳腐な世界の中、手にしたのは幾つかの武器。
そして目の前には『殺人鬼』と呼ぶにふさわしい存在。
「あの、さ……」
圭花の背後で草ががさがさとなる音がする。
それは奇妙な効果音のようにも聞こえた。
「だ、だれ……」
振り返れば、二つの瞳が圭花を見つめていた。
黒いマスクにチャックの細工。線の細い少年は、圭花に何かを訴える様に見つめてくる。
「誰? ……ここは何処?」
「俺は
朝長・夜空(ともなが・よぞら)だよ。……この世界の事は僕は、その、話せない」
古びた学生服を身に纏った少年の不安げに見上げるその瞳に圭花は「はあ?」と小さく首を捻る。
眼前の殺人鬼、後方には奇妙な少年。
どちらに行けど待ち受けるのは余り良い結末ではないことが理解される。
「此処に、あったんだ――赤い背表紙の本が……」
鼻先を擽るのは錆びた鉄の匂い。夜空が差し出した本は圭花にも見覚えがあった。
道端で見かけた『赤い背表紙の本』。それを手にした途端にこの奇妙な場所へと誘われていた。
「ここはゲームの世界と言う事か? 楓子のやっているゲームにはないグラフィックだが……」
草陰に座っていた
千歳飴 楓子は古いゲームの世界だろうかと首を捻った。
土の感覚もなければ木々の臭いもない。錆びた鉄の香りがその鼻腔を支配する。
スカートから『泥のグラフィック』を払い立ち上がった彼女は夜空と圭花の話を聞いていた。
ここは『奇妙な赤い背表紙の本』の一頁なのだという。
そして、この一頁を探さなくてはならない――その探し方と言うのは。
――人を殺したことってある?
このゲームの世界は寝子島より小規模な島なのだという。中央に役所の設備を備え、民家もいくつか存在する『ドット』の島。
そして、この場所で『
人を殺して生き残らなくてはならない』のだという。
その情報は楓子が村に向かった時に村民たちが幾度も口にしていた。
「『殺してけいけんちをゲットするとご褒美アイテムがもらえる』か。
村にいる村民はグラフィックのようだが、楓子がさっきすれ違った鎌男は『楓子たちと同じ姿』をしていたな」
確かめる様に告げた楓子は村民たちから何かヒントが得られぬものかと、村の方向をゆっくりと見つめた。
「ゲームのイベントよりも眠れない状況だな……」
「……詳しくこの状況を教えて?」
「あの殺人鬼に殺されないで、この世界で生き延びらなくっちゃいけない。
ただし、誰かを自分の力で殺してね。殺すと『けいけんち』をゲットできて、けいけんちが溜まって一定のレベルに届くと、本の頁がゲットできる……みたい」
この島には村民も存在している。『けいけんち』を稼ぐにうってつけの存在がいるのだという。
吐き気を催す様な状況の中、夜空は丸い瞳を細め、「ゲームなんだってさ」と笑った。
「殺す以外に、何か選択肢は?」
確かめる圭花に夜空は何かを言おうとして「××××」と声が掻き消えた事に表情を曇らせた。
「……?」
「僕は、本の世界の中じゃ抜け出す方法を言えないんだ。けど……あの殺人鬼が誰か分かったなら――」
そのヒントも島の中にあるはずだと夜空は言った。
それを見つける前に殺されてしまうかもしれない。危惧する圭花に夜空はにこりと笑う。
「大丈夫だよ、死んだって、『プレイヤー』は『また生き返る』から。今のうちに逃げ、」
圭花の言葉に答えると同時、殺人鬼が振り下ろした鎌が夜空の胴を裂いた。
日下部あやめと申します。
桃川 圭花さん、千歳飴 楓子さんはガイドへの御出演有難うございます。
『奇妙な赤い背表紙の本』を拾ったアナタはドットの世界へと誘われます。
殺人鬼と呼ばれる巨躯の男が闊歩する島内。村民と呼ばれる『キャラクター』が存在するその場所で、貴女は人を殺して『けいけんち』を稼がなくてはいけません。
『けいけんち』を稼ぐためにどうするかという葛藤をどうぞ、ご記載ください。
殺さず殺人鬼が『誰』であるかを解き明かせればそれが近道となって本をゲットする事が出来るかもしれません。
簡単に言えば、モブキャラ多めの殺し合いです。生き残るための術を探してくださいませ。
●島
すべてがドットで出来ています。
区役所、集落、図書館と様々なものがあります。
区役所には放送の設備などもあるでしょう。2つほどの集落がありモブキャラクターの村民が存在しています。村民はドットで出来ています。
島から脱出する方法はありません。頁を探さないと抜け出す事は出来ません。
「ここに隠れる」や「とりあえず夜空ころす」「殺人鬼の謎を解く!」とか好きな方向性のアクションを自由に書いてください。
ろっこんの使用は可能です。様々な武器は『島内』に落ちています。
武器を持って戦うも、何らかの能力を駆使するも可能。
※死にません! 死んだ痛みなどは感じます。でも、死ねません。
●殺人鬼
巨躯の男性。鎌を握りしめて追ってきます。知性が低いのか、誰かが使用しているのを見た武器でなければ使用できません。
彼はドットではありません。皆さんと同じような姿をしています。
彼は鈍足なので、逃げ切るのは決して難しくありません。
ただし、突然目の前にやってきます。ワンターンキルを行ってくるかもしれません。
彼がこの世界を作り出した存在。赤い本の本来の住民の様です。
彼が何者であるかが分かれば『けいけんち』を稼がなくともこの世界を抜け出す事は出来そうですが……。
●NPC
朝長・夜空(ともなが・よぞら)
中学生くらいに見える外見の背が低めの少年です。鉈所有。
黒いマスクにはチャックの細工が施されており、彼が重要なことをしゃべることを防いでいるようです。
「この世界は、赤い本の一部なんだ。ごめんね、僕は大事なことをしゃべれなくって……みんなの力にはなるから」
それでは、深紅の頁を探して。
どうぞ、ご武運を……。