深紅の頁｜リアクション

深紅の頁

　村人たちを相手にしながら、もう少し『心が痛む』ものだと考えていた殺しが何の感慨も湧かないのだと楓子は手にしていたナイフを見下ろした。
　ドットで出来た村人たち。経験値稼ぎのモブキャラクターの体を成した存在は赤い血を撒き散らすものの『人間らしい』反応は魅せない。
「ふむ……意外とあっさり死ぬんだな」
　独り言を繰り返しながら楓子は目の前で惨殺された夜空の事を思い出す。
　彼もあっさりと死んでいた。それを目の当たりにしたときに咄嗟に「やばい」という言葉が出たが、この世界がゲームだと感じられるたびにあっさりとそれに順応する自分がいることを悟る。
「殺人は気が引け……いや、ゲームなんだしな。うん。精神的抵抗は何もないな」
　いつも通りにダンジョンをクリアするように人を殺す。
　当たり前の作業だという様に楓子は繰り返した。
　頁の手がかりを探さなくてはいけないと首を傾いだ楓子は全員殺すのはまずいのかと周囲を見回した。
　返り血を浴びようとも気にするそぶりを見せない楓子はふと、首を傾いだ。
「……っと、そういえば全員殺すのはまずいのか」
　図書館に向かいながらも適当に人を殺し続ける楓子は『図書館ならば答えが見つかるはず』と考え扉を開く。
　先に到着していた面々は情報収集を終えたのだろう。微かに人がいた痕跡は残っているが気配はもう消えている。
「ふむ、誰かが辿り着いていたのか……さて、情報は――」
　きょろりと周囲を見回しながら楓子は「わからん」と困った様に眉根を寄せた。
「受付の人にでも聞いて……あ、さっき殺したんだった」
　これは詰みゲーというのだろうかと困った様に頬を掻いた楓子はゆったりと椅子に座り周囲を見回す。
　音の無い空間は赤い血でべっとりと汚れた受付テーブルが奇妙なオブジェクトとして存在している。
　見下ろせば自分の衣服も作り物のような赤で汚れていた。
「殺人鬼の正体もわからないな。
　ドットじゃないところを見るに、低予算ゲームにありがちな、ボスキャラだけグラフィックがあり、残りは使いまわしのドットってやつか、あるいは楓子と同じ状況の人間かって所だろう」
　生々しい人間の感覚が彼にはある――どうしたものかと首を捻りながらも彼女はゆっくりと立ち上がった。
「……わからん。推理はみんなに任せて楓子は経験値だけ稼いでおこう」
　殺す事には何もためらいはない。
　さて、人が多そうなところは―――

　伽藍とした図書館に残った殺人痕に顔をしかめてサキリは周囲を見回した。
「赤い本もゲーム機に姿を変えて存在しているかもしれない」
　殺人鬼の正体はこのゲームのプレイヤー。それは予想だがその予想が当たれば逃げ出す切っ掛けにもなる。
　人を殺して経験値を稼ぐ。その結果が此処の殺人痕なのだろうと感じてサキリは「安直だな」と小さく呟いた。
「チープな世界では葛藤も何もない……この世界そのものが僕たちに人を殺させようとしているみたいだ」
　武器のマチェットを二本。調達し図書館で適当に荒らされていた島の歴史を確認する。
　誰ぞがチェックしたのだろうか。本には猟奇殺人等の形跡はなく、ひらがなで「しまのれきし」と書かれたものがいくつもオブジェクトのように存在している。
　曰く、この島にはたくさんの人々が存在し、スローライフを送っているのだという。
　そして夜な夜な人が死ぬ伝染病が昔にはあり、外界とは遮断されているとも書かれていた。
「……ここは孤立した島、なのかな」
　首傾いだ彼は外でがたん、と大きな音にしたことに気づく。
　そっと息を潜め、資料を適度にまとめて役所側へと向かう彼と入れ違いに殺人鬼が内部へと入った事に気づいた。
（こちらには気づいていない……？　何か、探してるのか？）
　何処かに仲間がいるだろうか。
　一先ずは仲間を探し合流しよう。謎を解く以上は複数人の意見が必要だ。

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